役所ってどんなとこ?
見上げれば暗い洞窟の中、時折ぴちょんと水が滴る。
ここは街から北西にある、とある鉱山。
過去は鉄鉱石やミスリルの採掘場だったが、今は廃坑となっている。
その内部は入り組んでいて、今となってはモンスターの巣窟。
仮に立ち入る者がいたら、それは自己責任で。
という看板が入り口に立っていた。
シギャアアアア
「うるさいニャ」
グルルルルルア
「邪魔です」
襲ってくるであろう敵は大抵俺が姿を確認する前に瞬殺されている。
「ニヒヒ。ドロップあったニャ♪ミスリルなのニャっ♪」
「大声出すと敵に見つかりますよ」
「なるほどニャ、その分ミスリル取り放題ニャ」
何で俺、こんなところにいるんだろう。
*****
役所で32匹の俺と【合体】した後。
俺の中では、ミケさんはすごいなーそれじゃーまた会ったらよろしくーってな会話をしてサヨナラの予定だった。
実際は如月さんとミケさんが俺にわからない会話をし始めたので、ちょっと散策してくるってな感じでその場を離れたので結果オーライ。
せっかくなので、あちこち回ってみることにした。
近いところで、まずは建築課。
大工さんがアルバイトを募集してるとか、釘やら板やら集めて来いというクエストが受けられるらしい。
マイホームの購入もここでできるようだが、ン千万単位なので資金が全っ然足りない。
そもそも家を買うとどうなるんだろう。いつかは考えることになるかもしれないが、今はまだいいや。
次に農林水産課。
木を切って来いとか、魚とって来いとか、よくあるクエストだ。
クエストには依頼人の欄があるが、時々プレイヤーらしき名前が入っていたりする。
自分にあった装備を作ってくれみたいな依頼が出来るのかもしれない。何課なんだろう。
そして環境課。
草刈やゴミ拾いはここの管轄のようだ。
下水道の仕事なんてのもある。
現実なら水道局だけど、これは深く考えちゃダメなところだな。
後は、企画課。
ハウスメーカーのアンケートに答えるとマイホームグッズがもらえるとか、来週封切りになるアニメのアバターがもらえるクエストなんかがある。
アバターは気になるけど、上着も下着も着られないし、アクセサリーはせいぜい髪飾りくらいしかつけられない俺には縁のない話だ。
スライムでやると決めたのは俺自身なので、別に後悔はしていない。
こいつなりの楽しみ方をまだ見つけていないだけだ。
そういえば、【分裂】も覚えたんだっけ。
ミケさんがひたすら千切ってくれたせいだろう。
試しに発動すると、3/8サイズの俺×2になった。
マップを見るとどこかにいる1/4の俺と合わせて3体。
目の前の一体分の制御は可能だが、視界を分割しようとすると2画面にしかならないので、1/4の俺とは通信が途絶えているとみてよさそうだ。
どこまでが圏内なのか、近いうちに実験だな。
あらかた見て回ったので、1/4俺を回収しに行こうかと思った矢先。
「次はどちらへ向かわれるんですか?」
如月さんがいらっしゃいました。
「あ、エロ眼鏡発見なのニャ!置いてかないで欲しいのニャっ!!」
「今何かいいました?」
振り向き様また何か投げてる如月さん。
今度は当たったら痛そうな、金属っぽい棒状のもの。
ゴスッと音がして、壁に突き刺さりヒビが入った。
「なんちゅーもん投げるのニャ。当たったら痛いのニャ!」
痛いだけじゃすまないと思います。
「鍉鍼と言います。本来刺して使うものではありませんが、鍼灸では普段から使用される道具ですよ」
「鍼ってもっと細くて、体に刺してもプルプル揺れてるようなヤツじゃないのかニャ?」
「それは毫鍼です。敵の動きを止めたり、味方のステータスを一時的にUPさせるときに使いますね」
「・・・ってそんなことはどうでもいいのニャ!危ないのニャ、このエロ黒眼鏡」
「まだ言いますか」
「ニャニャニャニャっ!!」
俺からは今の如月さんのモーションは見えなかった。
だがこの至近距離で、ミケさんはそれを全部かわしたらしい。
「なまじ器用とスピードが高すぎると、もう化け物ですね」
「エヘヘ。ありがとニャ」
「さて、化け猫は放っておいても問題ないですが・・・」
そして俺をじーっと見る如月さん。
ちょっと目が据わってます。
「こちらは、どうしましょうねぇ」
「俺も、放っておいてもらってもいいんですけど」
「いいんですか?本当に後悔しませんか?」
「放らないで欲しいのニャ!我輩に装備作って欲しいのニャ!!」
逃げようとする俺、すがるミケさん。
ああもう話が進まない。