噴水広場の決闘?
「きゃんっ」
ローブの女が声をあげた。
転んでしまったようでしりもちをついている。
男が振り返り様、剣を振ると、その剣先に猫人間が現われた。
一瞬猫人間が転びそうな体勢になり、空中で手をわたわたさせバランスを取る。
その隙を狙って、男が再度剣を振るうが、猫人間はひらりとかわし、距離をとった。
落ち着く間もなく、そのまま噴水を時計回りに走り出す。
そのすぐ後を追いかけるように、地面が3度、破裂した。
「ねこちゃんすごい。ぜんぶかわしたね」
「今のタイミングだと、トラップの限度は3つのようですね。熟練度はそれほど高くないな」
ぴょんと跳ねて、噴水の上のモチーフに陣取る猫人間。
鎧の男の剣が届かないギリギリの範囲。トラップも敷けないようだ。
「やるなお前」
「それはどうもニャ」
男の右手が閃く。
猫人間が跳んだ後で、ナイフを投げたのだと気付いた。
女が杖を構え、空中で逃げ場のない猫人間めがけ魔法を撃つ。
「終わりよっ!」
「当たらないのニャん」
猫人間はくるりと宙で身を躍らせ、火の玉らしき光をかわす。
「詰めが甘い」
「にゃっ!?」
かわすことは予測の範囲内だったのだろう。
鎧の男は既に猫人間の着地点で剣を構えていた。
猫人間の足が地面に着く直前。
男の剣が、猫人間の体を貫いた。
「惜しかったな、子猫ちゃん」
「ふ・・・残像ニャ」
バキっと耳障りな音を立てて、鎧の男が吹っ飛んだ。
男がいたはずのすぐ後ろで、拳を掲げる猫人間。
裏拳で吹っ飛ばしたらしいが、男は建物の壁に当たって光の塵となった。
「ムフフ。一度言ってみたかったのニャ」
「フザけた真似を・・・っ」
鎧の男が倒れた時点で、既に勝負はついたも同然だった。
女が猫人間を中心に陣を敷くが目にも止まらぬスピードの猫人間に適うはずもなく。
「遅いのニャん」
背中から肘鉄をくらったローブの女は、あっさりと光の塵になった。
*****
「すげぇ・・・」
まだ始めたばかりの俺でも、猫人間の強さは桁違いだと分かる。
それらしい武器も持たずに、ほとんど一撃で敵を倒してしまった。
特筆すべきはそのスピード。
どれだけ能力高いんだ。
「にょっ!」
「うああああ」
気付くとその猫人間が俺の目の前にいた。
「我輩はミケなのニャ。お前ら何者ニャ?」
「ぼくは葉月だよっ。西地区のアシスタントカフェではたらいてるの!」
「ニャるほど。道理でおかしな格好してるわけニャ。
そこのスライムもアシスタントなのにゃ?ツンツンしてもいいかニャ?」
「いや、俺はただのプレイヤーで」
ツンツンはできればやめてもらいたい、と続けようとしたら、俺とミケさんの間にぶっとい針が飛んできた。
いや、違った。編み棒だこれ。
でも編み棒って屋根に刺さるか?普通。
「!! 危ないのニャっ!!」
「それは私のです。触らないで頂きたい」
桜吹雪がざああっと散ってカメラワークが不思議な動きをし始めた。
俺ら5人(?)を斜め上からぐるりと見渡しピンク色のレイヤーがかかる。
いい加減このイベントシステム面倒くせぇ。
「にょにょっ!?アシスタントのくせプレイヤーににヨコシマな感情を抱いているのニャっ!?」
「イベント上の台詞です。誤解しないでください。言っておかないと次に進まないので」
どこに進む気だ。
「むむぅ。相変わらずこのゲームは奥が深いのニャ。
そちらの綺麗なお姉さんは、我輩にアドバイスなどないのかニャ?」
「知能の低い輩は好かぬ。悪く思わんでくれ。これも仕事なのでな。さらばだ」
「ぼくも背の低い女の子はきらーい。じゃーねー」
事件が収集したせいか、キツイ別れの言葉を残し二人は屋根の上を跳ねながら帰ってしまった。
後に残るは、俺と如月さんとミケさん。
「そっちのスーツの兄ちゃんは我輩を嫌っているわけではないのニャ?」
「そうですね。モンスターは嫌いではないことになってます。特にボーナスポイントの高い子はね」
「ふむふむ」
「ですが、貴女にアドバイスできることはありませんよ。
オープン2日目で種族レベル20超えなんて、どんだけ廃プレイしてるんですか」
「そんなことも分かるニャんて、アシスタントはすごいのニャ」
「それで、貴女の目的は何ですか?」
「スライムをちょっとツンツンしてみたいだけニャ。あとは、びろーんって引っ張ったりしてみたいのニャ♪」
無言で俺に目線をくれる如月さん。
口元が弧を描いている。
「では、どうぞ」
大きく振りかぶった如月さんは、俺の嫌な予感どおり、懐の俺を明後日の方向にぶん投げた。
「ニャっ♪」
それを追いかけていくミケさん。
犬じゃないんだから。
そして俺をホイホイ投げるのやめて、と思ったところでシステムメッセージが流れた。