屋根の上のお散歩?
「スキルは何か増えましたか?」
「【跳ねる】と【合成】にポイント振ったくらいで、たいして増えてません」
「そうですか」
「でも【合成】の使い方が分かりません」
「合成の意味、知ってます?」
「アイテムとアイテムをかけ合わせる、じゃないんですか?」
「概ね正解です。辞典を開けば分かりますが、二種類以上のものを合わせて一つのものを作ることを【合成】と言います」
「二種類以上の何かがなきゃないんですよね?」
「そうですね」
「その何かをどうやって手に入れればいいんでしょう」
「それは・・・」
「それは?」
キィ、と扉を開けてカフェの外に出る如月さん。
握られている俺も当然カフェの外に出る。
「教える気はないので、自分で見つけてください」
「ケチ・・・あいたっ!」
「そのうち分かりますよ。とにかく今は経験を積むことです」
もともと期待はしてなかったさ、なんて思う間もなく。
毎度のごとく引っ張られて体を二分される。
にこやかに言うくせに、やってることはえげつない。
「町の中の散策がご希望でしたよね。いってらっしゃいませ」
ぽーいっ。
・・・ほーらね。
今日もまた俺の体は空を飛ぶ。
辿り着いたのは、屋根の上。
中世風の建物が並び、一番奥には城が見える。
逆方向へ目線を向ければ、少し開けた広場と噴水、いくつかの煙突。
大きな十字架は教会。
そこは今まで見たことのない景色が広がっていた。
これが、FreeWheeling Onlineの町並み。
現実世界でも滅多にない屋根の上から眺めたその景色に、俺はしばらく言葉を失っていた。
*****
屋根から屋根へ移動するのは、思ったより楽だった。
【跳ねる】が予想以上に効いている。
【全力疾走】と組み合わせると、かなりの距離を飛び越せるのだ。
飛び移るのに失敗して落ちるとダメージは受けるが死ぬことはなかった。
如月さんに確認すると、意図的に跳ねて飛び降りるのと、屋根から落下するのでは意味合いが違うということらしい。
「ダメージを受けるってことは、床や地面の抵抗はデフォルトで2以上あるってことですか?」
「いいところに気がつきましたね。貴方がダメージを受けるということは2以上と考えて差し支えないでしょう。
ですが前にお話したとおりデフォルトは1です。
道はこの通り整備されています。ということは誰かが手を加えた状態です。石畳や大理石で出来た廊下は特に気をつけた方がよいでしょう。
壁の抵抗が0なのは、大人の事情です。壊れた壁の先には何かあるはずですよ」
そんな雑談をしながら、屋根の上をせっせと跳ねる俺。
町の外に向かいたいのだが何せマップ情報がないため、町の出口が分からない。
ちょっと開けた通路に沿って移動すれば何かしらあるだろうと、大通りに沿って移動中である。
「あれ、まだこんなところにいたの?」
聞いたことのある声に振り向くと、先ほどカフェであった男の子が隣を併走していた。
「おや、葉月くん出動ですか?」
気付くと如月さんも逆隣にいる。
いつの間に屋根の上に上がってきたんだ。
「噴水広場でばかちんパーティーが暴れてるんだって。飛び道具持ちに召集がかかったみたい」
「何人パーティーですか?」
「情報では二人。近接戦闘系とヒーラーみたい。防御がかなり硬いらしいよ」
「へぇ・・・」
「手、出さないでね。僕の獲物なんだから」
言ってポークルの葉月くんは猛スピードで屋根の上を駆けていった。
「この先は、ちょっと危険かもしれません。行きますか?」
「行って見たい、かな」
「分かりました。護衛はしませんのでご了承ください。
【察知】を常に使用しておくことをオススメします」
それでいいです。
というより、俺の半分如月さんが持ってる時点で、一応身の保証はされてるかと・・・あれ?
「如月さん、俺の半分、持ってます?」
「半分の半分なら持ってます」
「ちょ!1/4どこやったんですか!!?」
「必要なかったので、街中のゴミ箱に」
「何してくれてるんですか!!」
さっきからやたらと生ゴミ臭が漂ってくるのはそのせいか!
言いたいことはいろいろあったが、今は噴水広場の事件が先だ。
葉月くんは獲物、と言った。
きっと如月さん同様、通常では持ち得ないスタイルを使うに違いない。
何が起きるのか、ちょっとわくわくする。
*****
屋根の上をぴょんぴょん進んでいると、パーティー申請が飛んできた。
相手はもちろん如月さん。
何でだろうと思っていると、さっさと了承しろと言わんばかりに睨まれた。
敵を倒してくれれば、こっちの経験値もあがるしな、という打算もあるのでパーティーを組むには異論はない。
「はい」を選択し、パーティーを組んだ途端、如月さんの姿が消えた。
「き、如月さんっ!?」
「何ですか?」
「え?あれ?」
「これから敵に近づきます。葉月くん達が相手するので狙われることはないと思いますが、用心にこしたことはありません。
なるべく敵に【察知】されないスキルを使用してついてきてください」
「・・・とは言われても」
敵に見つかりにくいスキルというと、今のところ【迷彩】くらいしか思いつかない。
あと強いて言うなら【忍び足】とか。
【迷彩】使いながら移動はできないので【忍び足】でついていく。
ただ、これちょっと速度落ちるんだよな。
マップの青丸がどんどん離れていく。
如月さんは姿を見せずに移動できるスキルを持っているようだ。
まぁ、そりゃあるよな。
頑張って熟練度あげよう。
「そこでストップ」
え?
青丸は少し先にある。
目で見える範囲で、建物のないひらけた場所があるので、あの辺が広場だろう。
「東側に迂回してください。方向がよくない」
はいはい東ね、と思いつつ隣の屋根に飛び移った瞬間、何かが砕けるような大きな音がした。
土煙があがり次々と建物が壊れていく。
建物の破壊は徐々にこちらに迫ってきて、俺がさっきまで乗っていた屋根のすぐ手前で止まった。
如月さんのHPは半分減っている。
一体何が起きてるんだ。