2日目も似たような感じ?
コンビニ寄っていつも買ってる雑誌に手を伸ばそうとした時、ちょうど隣にいた男の子が読んでたゲーム雑誌が目に入った。
たいしてゲームには興味のないあたしだけど、目に入ったのは大好きな漫画家さんのタッチで描かれたイラスト。
見間違うハズはない、小豆米さんの絵 (しかもイケメンがいっぱい)だ。
仕事の時間まで時間があったので車に戻って、立ち読みして覚えたゲームの名前をスマホでググる。
目的のページはすぐに見つかって、やっぱり作画はお気に入りの人だと分かった。
親密度を上げていくと愛を囁かれたり抱きしめられたりするらしい。しかも3D。
どうしよう、ちょっと遊んでみたいかも。
HMDってちょっと高いけど、カードでリボ払いにしとけば大丈夫だよね。
必要な物は仕事帰りに買うとして、時間の許す限り情報収集。
お客様の情報を事前に把握することは営業にとっては必要不可欠な業務なのですよ。
というわけで、ええと、この人の場合はモンスターでボーナスポイントが高いと親密度を上げやすいのね。
後は・・・。
*****
修練用ダンジョンで一人残された俺は、幾度かHPを0にしながら入り口までたどり着いた。
道中は割愛。
成果はなかったけど、いいこともあって、HPが0になったせいで体の大きさが最初の大きさに戻った。
よくないこともあって、大きくなってかじられやすくなったこと。
図体がでかいと云々って如月さんに言われたのが身にしみて分かりました。
明日は休みとはいえ、夜の12時なんてとっくに過ぎていたのでキリのいいところでログアウト。
お疲れ様でした、俺。
というのが昨日の話。
今日は気合を入れて午後からログイン。
今日こそ町の外に出てやる。
後はやっぱりスキルを重ねて、経験値を得る方法を探さないと。
今日の目標を決めて目を開くと、そこは昨日ログアウトした場所、修練者用ダンジョンの入り口。
この光の螺旋に入ると例のカフェの地下室に出るわけだ。
修練者用ダンジョンで経験値は稼げるけれど、俺一人では敵を倒すことが出来ない。
ということでもうここには用はない。
そういえば、スキルにポイントって振ったっけ?
確認の意味を込めてスキルウィンドウを開く。
昨日増えたスキルが【食べる】【合成】【消化】【吸収】【吐き出す】の4つ。
と思ったら、いつの間にか増えているスキルがある。
---【跳ねる】ジャンプする、飛び跳ねる---
やっぱりそのまんまだし。
レベルが上がった時に一度確認したが、このスキルはなかった。
何かの行動が条件になる場合もあるのだろうか?
確かに水の中で跳ねまくってたしね。
ということで【跳ねる】と【合成】にポイントを振って残りは186。まだまだ余裕。
この際能力値に振ることも考えたが、まだ方向性が決まらないので我慢する。
他にも行動しだいで発現するスキルがあるかもしれないし。
今はとりあえず【合成】を試したい。
何か合成できるものはないかな。
というか、どうやって合成するんだ?
アイテム欄に合成したいアイテムを突っ込むんだろうか?
だがアイテム欄にはアイテムがない。
拾おうにも修練者用ダンジョンには何も落ちていない。
・・・手がないから拾えないっていうオチじゃないよな。
それなら食べればいいじゃない、という天の声が聞こえた気がしたので小石とか拾えるかもという期待を込めて、地面に向かって【食べる】を発動。
ざりっ
顔がヒリヒリしただけでした。
もういい、帰ろう。
*****
石畳の廊下をぽよんぽよんと移動する。
階段の上の方から、うっすらもれる光と喧騒。
誰にも気付かれないよう、ひっそりこっそりと階段を上がると。
「何だてめぇは。スライムか?あぁん?」
早速怖い顔のお兄さん(?)に見つかってしまいました。
オーガだと余計怖いよね。
「ダメだよ睦月くん。怯えてるじゃない。ごめんね、こいつ顔だけじゃなくて口も悪くって」
「お前ぇだって人のこと言えねぇだろ。気ぃつけろよ、こいつの腹ん中は真っ黒だかんな」
「あー、睦月と水無月がまたけんかしてるのー。めっ!だよ」
「るせぇ、葉月は黙ってろ。ガキが出しゃばんな」
一人二人と集まってきて、俺とは関係なしに話が進む。
集まってくるのは男ばかり。エルフだったりポークルだったりと、種族は様々だ。
このカフェ、萌えと癒しがモットーなら、最初に性別を男って設定したはずの俺は女の子に言い寄られるんじゃないのか?
だが肝心の女の子達は別の席でお喋りをしていたり、せっせと料理を運んだりでこちらに寄ってくる気配はない。
設定、間違ってないよなぁ・・・?
じりじりと出口の方へ移動していると、オーガの兄ちゃんが俺をつまみあげた。
「てめぇどこ行く気だよ。そんなレベルで外出てみやがれ。ソッコー逝っちまうぜ?あぁ?」
「町の中を散策したいんです。死ぬかどうかはやってみなきゃ分かんないと思います」
「だぁーかぁーらぁー。人の話聞いてたか?オイ。耳ついてんのか?コラ」
「おそとはあぶないんだよぉ。こわーい人たちいっぱいいるよー?」
「その装備では死ににいくようなもの。まだここで学ぶことはたくさんあると思いますが」
心配してくれるのは有難いが、低レベルのスライムだから無理、みたいに決め付けるな。
こっちだっていろいろ試したいんだ。
「俺がどうしようが俺の勝手だろ!ここはそういう世界じゃないのかよ!!」
ぱちぱちぱちぱち
どこからか拍手が聞こえた。
認めてもらえたことが嬉しく、拍手の聞こえた方向を振り向いて、俺は固まった。
「素晴らしいじゃないですか。スライムでたかがレベル5の分際で外に出ようという無謀な勇気に敬服しますよ」
いたんですね。如月さん。
「さて、今日はどなたをご指名ですか?」
「いや、今日は仕方なく通りかかっただけで、ここに目的があったわけでは」
「ご 指 名 は?」
今日は一人で散策したい気分なんですが。
ううう。
ただ、こう揃いも揃って死ぬからやめとけみたいなことを言われると、心細くなってくる。
朝一で兄貴の部屋を覗いたが、HMDを装着して布団にくるまったままだったので、結局LUCKについては解決していないのだ。
1くらい減ってもどうってことないのだが、寿命が縮まると考えると容易に減らしたくはない。
ここは誰かに手伝ってもらうべきだろうか。忙しかったりしないのかな?
まぁ、所詮ゲームだし、気を使うこともないだろう。
「じゃあ、そちらの・・・ええと水無月さん?」
「すいません。僕、人外のものには興味ないんです」
あっさり拒否。
人外、ってエイリアンみたいな言い方は少し傷つく。
「じゃあ、そっちの葉月くんを」
「えへへーごめんねー。ぼく、自分より背のたかい人まってるのー」
「俺は、スライムなんざ認めねぇぜ」
遠まわしに断られ、睦月という人には尋ねる前に否定される。
ちら、と如月さんを見ると、口元は歪んでいるが眼鏡が反射して表情は読み取れない。
「ええと、他の方はいないんですか?」
「生憎、今手があいてるのは私達4名ですね。
諦めて、私と一緒に外へ出るか、地下のダンジョンでお仕置きされるか選んでください」
「一人で外に出るという選択肢は・・・」
「では外へ出るという貴方に付いていく私の自由も尊重してくれますよね」
何があろうとついてくる気満々なんですね。
「そんな嫌そうな顔しないでください。まぁどうしても一人で行きたいというのなら、昨日の修理費を・・・」
「ああもう尊重しますってば!」
「ありがとうございます」
「決まったな。オラ、持ってけ」
軽く風を切って、俺の体は睦月さんから如月さんへ。
カフェの中は狭いとはいえ、ライナー気味で人を投げるのマジやめてください。