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修練者用ダンジョンにて⑤

「なんなんですか、その体は」

「ええと、試しに水飲んだら大きくなりました」

「ぽっちゃり系は嫌いではありませんが、限度ってもんがありますよ?」

「俺的に、身長はこのくらいが自然だと思うんです」

「二足歩行の生物なら、そうでしょうね」

「…そろそろ下ろしてもらえませんか?」

「その魚、吐き出してからです」


俺の食べたブロンズフィッシュから伸びる透明な糸の先は、如月さんの持ってる釣竿に繋がっている。

如月さんの身長の3倍以上ありそうな長い長い釣竿。


「釣竿、すごい長いですね」

「6.3mありますからね。現実で扱える人も多くはないでしょうね。ほら、さっさと吐き出してください」


ブロンズフィッシュは動かない。

釣り針があるせいか、【消化】も【吸収】もできない。

仕方なく【吐き出す】と、支えを失った体がぼよんと地面に落ちた。


「とりあえず、おつかれさまと言っておきましょうか。そろそろ時間ですね」


鮮やかな手つきでブロンズフィッシュをはずし、釣竿をたたむ如月さん。

何事もなかったように、その釣竿をポケットに押し込んだ。


「ちょ。そのポケット、どうなってるんですか!?」

「ああ、私の場合このポケットがバッグ代わりなんですよ」


俺の場合、意識すればスキルと同様にバッグの中身が確認できるのだが、実を言うとそれらしきものは持っていない。

如月さんの後ろに佇んでいる俺を見ても、それらしきものを持っている様子はない。


「バッグは初期設定ではウエストポーチのような外観です。

 スライムを含め、バッグを持つことでキャラクターの雰囲気を損なう恐れがある場合は割愛されることもあります。

 いわば大人の事情ってやつです」

「装備アイテムではないんですか?」

「初期設定では装備アイテムではありませんがそのスロット数は8しかありません。

 しかし装備アイテムとしても存在します。ダンジョンに長期で潜る場合などはスロット数の多いリュックが好まれます。状況によってはスロット数が3ケタを超えるタンスを背負うこともできますが、あまりオススメはしませんね」


如月さんは説明はしてくれるのだが、時々回りくどい。

俺短期すぎるのだろうか。

如月さんが胸ポケットから出したハンカチらしきものは、広げると結構な大きさだった。

それでブロンズフィッシュを手際よく包む。


「で、如月さんのポケットがバッグってのはどういう理屈なんですか?」

「単純に装備を自作する際に、スロットを組み込むかどうかという話です。

 熟練度が高ければ外見のカスタマイズは自由自在ですから」


唯一装備できる頭の部分で、スロットがついているものなんてあるんだろうか。


「後は本人のセンス次第ですね。帽子にポケットついてたら私は笑っちゃいますね」


ううう。


「・・・なんとなく分かりました」

「これでよし、っと」


如月さんは、包んだブロンズフィッシュを胸ポケットに押し込んだ。

四次元ポケットを持つ猫耳ロボットもびっくりの光景ですよ。


「持ってかえってどうするんですか?」

「ゴールデンフィッシュほどではありませんが、かなりの高値で取引されます。貴重な材料ですよ」


それはイイコトを聞いた。

あいつ捕まえれば金儲けが出来そうだ。

けどその前にクリアしなければならない問題が山積みだ。


「さて、23時になりましたので本日の営業は終了します」

「え、営業?終わりですか?」

「初めに申し上げたでしょう。私はアシスタントカフェ、グループ暦の如月仁です。

 またのご指名をお待ちしております」


綺麗に一礼して、にこりと笑う如月さん。

カフェの名前とか如月さんの名前とか今初めて聞いた気がするのは気のせいでしょうか。


「あ、そういえば一つ忘れていました」

「何ですか?」

「あちら、見てもらえます?」

「はい」


ちき、と金属的な音が聞こえた。

ひゅいっと背後で風が切れる。


「図体がでかい、ってことは標的になりやすいってことなんですよ」


ん?

真意を理解する間もなく、視界が真っ暗になった。

瞬きするように何度かぱちぱちと目を見開くと、俺の前に立つ後ろ姿の如月さん。

視点が超低い。

さっきまで、湖から吊り上げられた俺は如月さんの前にいたはずだ。

もしやと思いマップを見ると、赤丸はひとつしかなかった。


「気をつけてくださいね?」


振り向きざまに笑って、光の螺旋と共に如月さんは消えてしまった。


湖の側にいるのは俺一人(一匹)。

心地よい風に吹かれて波立つ水面を、俺はしばしの間、呆然と眺めていたのだった。



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