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はじまりはこんな感じで

「ふふふ。みーつけた」


彼女は躊躇なく俺を掴み、そのままにょいーんと引っ張る。


「ちょっと待て!俺は行くって言ってない!!」

「ぶっぶー残念でしたー。他に行ける人がいないんですー。ってことで、いってらっしゃーーい」


大きく振りかぶった彼女の腕が仄かに光っているのは、俺の大嫌いなスキル【投げる】が発動している証拠。

ぷちっと半分にされた俺の片割れは、今まで誰も入ったことがないという城壁をやすやすと飛び越えた。



*****



時間は数日前に遡る。


「シゲ、Freewheeling Onlineって知ってるか?」


昼飯を食いながら、兄貴が語るのは今度オープンするVRMMOの話だ。

自由奔放がコンセプト、戦士、職人はもちろん、農業に漁業、登山家や写真家などのマイナーな職種もあるらしい。

オープンβの時点で複数の企業がそれぞれ得意な分野で参画しており、オープン時には更に増えているというから驚きだ。

車メーカーのTONDAや電話メーカーのHARDBANKも協賛しているといえばどれだけすごいか分かるだろうか。

仮想世界は仮とはいえ身をもって体験ができる。二次元の平面では分からないことも三次元なら表現することができるのだ。

その仮想世界を使って自社の製品を宣伝してもいいよという経営方法を最初に取り入れたゲームでもある。

もともとゲーム好きの俺も気にはなっていたが、専用の機材が高価なため情報誌に単語があったらページをすっ飛ばす程度に避けていた。

そりゃ読んだらやりたくなるでしょ。でも出来ない。でもやりたい。

そうやってストレス貯まるのは嫌なんです。


「気になってんだろ?やってみろよ、つーかやれ」

「HMD持ってないの知ってるだろ?いくらすると思ってんだよ」

「あるし、貸すし、やるし」

「マジで!?嘘だったら俺から借りてったコミック全部買って返せよ?」

「それまだ根に持ってんのか。嘘だと思ってんなら部屋に行ってみて来い。さっき設定は済ませてきた」

「・・・誕生日もクリスマスもまだ先なんだけど。何か裏があったりする?」

「疑り深いやつだな。まぁ話せば長くなるんだが」


麦茶の入ったカップを口元に運ぶ兄貴。ごくん、と喉が鳴る。さっさと話せ。


「オープンβに参加してたんだけど、評価とか意見とか、あといろいろ投票してたら当たった」

「短いな」

「いやいやいや他にもクエスト達成率とか攻略ポイントとかで当たりやすくなる要素があってだな、確率アップのために俺がどんだけ頑張ったと思ってんだ」


待ってましたとばかりに早口でまくしたてる兄貴。


「米飛ばすなよ。落ち着けって」

「・・・で、やるよな?」


俺はスプーンを咥えたまま、首を縦に振った。

断る理由なんかない。

ついでに言うとやらないで後悔するより、やって後悔した方がいい。

それが俺のモットー。


「オープンは今日の19:00だから」

「マジ?後2時間もないじゃん」

「ネット関係の設定は済んでるから、始まってからの登録だけだ。ゲームの内容は説明した方がいいか?」

「・・・お願いします」

「じゃ、麦茶おかわり」

「了解です」




ゲームの進め方や操作方法はチュートリアルで覚えられるため割愛された。

俺だって今までRPGの類はいくつかこなしてきている。クエストをこなしレベルを上げる、その辺の概要は同じらしい。

変わりに兄貴が熱く語ったのがキャラ作成について。

基礎部分はキャラの種族で得手不得手があるから、イメージがあるなら早々に固めた方がいいとも言われた。

基本となるキャラはヒューマン、ドワーフ、オーガ、エルフ、スケルトン、ゴブリンなどが存在したが、今回の正式オープンで更に増えるだろうと兄貴は予想している。


このゲームはスキルポイントがあって、それを割り振ることでどんなキャラになるのか決まるという。

ポイントは、ATKやDEFのような基礎の能力値にも振れるし、スキルを取得するのにも使うらしい。

能力値に絞ってスペシャリストを目指すもよし、スキルに満遍なく振ってゼネラリストを目指すもよし。

ただしバランスも重要で・・・例えばATKが10ないと槌が持てないから槌マスタリーや鍛冶のスキルが取れず、かといってINTが低いとレシピが読めないため、やっぱり鍛冶のスキルが取れないことになる。


更にこのポイントはキャラ作成時にもボーナスポイントとして付与される。

ポイント自体はクエストやイベントでもらえるが、基礎やスキルに振ることを考えれば多いにこしたことはないだろう。

兄貴の情報では普通に出るのが20~30。

1日粘れば40台が狙えるらしいが、反復クエで規定値までのポイントが稼げるらしいので固執する必要はないという。

誰かが解析した結果だと、理論的には99まで有り得るとかで、50以上が出たら超ラッキーだと思って間違いなさそうだ。


「ちなみに種族を選ぶ場面でランダムを選ぶと、ゲーム内のモンスターがランダムで決定される。こいつらのボーナスポイントは主に40台以上。

 モンスター特性がつくが、スキルの取得にかなりの制限があるのがリスクだな。

 試しに1回やったけど、ゾンビだったからやめた」

「え、もったいなくね?」

「MMOなんてパーティ組んでなんぼだろ。ドラゴンならまだしも、ゾンビじゃどこも入れてくれねーよ。

 シゲはまだ経験ないだろうけど、VRMMOには臭いも存在するんだからな」

「・・・あー、そりゃ大問題だ」


ソロプレイ主体の俺でもそれは勘弁願いたい。

ちなみに兄貴はPTプレイ主体で、いつも誰かとチャットをしている印象がある。

そんな兄貴に追いつきたくてレベル上げしてたせいで、俺はPTプレイしてる暇がなかった・・・っていうのは言い訳か。

俺は人付き合いは苦手な方だ。


「兄貴は何にすんの?被りたくないから教えてよ」

「俺は魔法剣士だな。ポイントは初期値に戻ったけどβのキャラがアイテムごと引き継げたし、外見含めて結構気に入ってたからそのままやるわ」

「優遇されすぎじゃね?」

「能力上げないと使えない装備もあるし2,3日は地味にクエストこなしてポイント稼ぎで終わるだろ。てなわけで、そろそろ時間だな」

「とりあえず、やれるだけやってみるか」

「そういうこった。もう一つの世界だと思って、気張らずにやること。冒険行くときは誘えよ?」

「・・・前向きに検討しておきます」


麦茶を飲み終えた兄貴は席を立ち、自分の部屋へ。

俺もその後を追いかけるように自分の部屋へ戻り、用意してあったHMDを装着して横になった。



『ゲーム内での体感時間は特別なダンジョンや、公式のイベント期間内では現実世界と同一ではない場合があるため、初期設定ではリアル時間時計表示をONにしています。この設定は後から変更することができますが、体感時間と現実世界の時差による障害において、当社はいかなる責任をも負いませんのでご了承下さい』


頭の中で音声が響く。

詳しい仕組みはよくわからないが、脳に特殊な電磁波を与えることで軽い催眠状態へ誘い、ゲーム内の状況を実際に感覚があるように楽しめるらしい。


目の前に現れたキーボードをポリゴン化したような自分の手で操作する。

まずは名前を入力。性別は男。

外見は変えても声の補正はほとんどかからないようなので、そういうキャラを目指すのでなければ無理に異性を選ぶ理由はない。

次にキャラクターの種族を選択。

さて、どうしたものか。

ゲーム雑誌は戦士や商人のスタイルとおすすめのスキルがいくつか載っていたような気がするがそんな型にハマったスタイルで遊ぶ気はない。

物理や魔法のスペシャリストを目指したいところだが、そこは兄貴に譲ることにする。

敢えて逆を行ってエルフの鍛冶屋とか、オーガの細工職人とか・・・気がのらないな。

狩人や漁師も面白そうだが、ピンと来ない。

もしくはプレイスタイル。スピードを限界まであげたらどうなるのか。とか。


ああもうどうしよう。

悩んでる時間が勿体無いので、いっそのことランダムにしてみることにした。

何であろうと出たのをやるってことで。

はてさてゾンビが出るかドラゴンが出るか。



「・・・ウソだろ?」


選択画面に表示されたのは、スライム。

ボーナスポイント、256。


「ははっ・・・ありえねー・・・」


『このキャラクターでよろしいですか?』


機械的な女性の声が聞こえた。

半ば放心状態のまま、俺は、はいと返事をした。


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