第8部 暗がりに鬼を繋ぐ
すみません。大分遅れましたが8話を投稿致します。
今日は、基地の訓練学校は自主訓練日……所謂休日であったのだが、、
フランチェスカは教官から「シミュレータ室へ完全装備で小隊集合」
との指令を受け、シミュレータ室に小隊メンバーである、
ルーシーと他の2名を呼び、教官が到着するのを待っていた。
休日に呼び出された事に納得いかないのか、
銀色の髪を持った色白の少女、『ソフィア・イグナチェフ』が不満を漏らし始める。
「何故私達が休日に呼び出されなければならない…。
シミュレータ成績は…あまり良かったとは言えなかったが、
合格基準は満たしていた筈。
折角、ニホンの漫画を読んでいたのに…。納得いかない。」
「あん?何グチってるんだ。イグナチェフ。
眠たくなってくる座学なら兎も角……シミュレーター演習じゃないか!
体を思いっきり動かせる良いチャンスだよ!」
この少々荒っぽい口調で話す、
褐色の肌をした赤毛の筋肉質の少女『エリス・マクラミン』は、
不満を漏らすイグナチェフに対して軽口を叩く。
「……前の訓練に原因があるとすれば、マクラミンが考え無しに突っ込むせい。
貴女の仕事は電子戦機と攻撃機の護衛。それを分かって言ってる?」
「…言ってくれるじゃないか、イグナチェフ。
私はペンドラゴンに護衛を任せて敵を引き付けたダケだ!
だいたい、電子戦機なんて、
私ら空戦機に守って貰わなけりゃ何も出来ない癖に指図するんじゃないよ!」
売り言葉に買い言葉と言った様子で、言い争いはどんどん白熱していく。
フランチェスカは、また始まったか。と言わんばかりに頭を抱え、
人の良いルーシーは、二人をなんとか落ち着かせようと、あたふたと駆け回る。
「一世代前ならともかく、今は自衛機能が充実している。
座学でもそれは学んでいる筈。座学中、船を漕いでるマクラミンには難しかった?」
「あーあー。それは悪うござんしたね。
でも、そう言うイグナチェフは実技試験はドン尻じゃないか!
体に行く栄養が、頭にばっかりいってるからさ。少しは体を鍛えな!」
「無能な奴程良く喋る。少し黙れ、脳筋黒焦げ女。」
「あ、ん、だ、と……?やんのか!この亡霊まな板女!」
今にも飛びかかろうとする2人を、ルーシーが慌てて止めに入る。
教官が居る所でこの様な場面を見せ付けたら、堪った物ではないからだ。
「二人とも、辞めて…!教官が来たら大変だよ…!」
「「フンッ!」」
お互いにそっぽを向く2人を見て、フランチェスカは頭を抱え、溜め息を漏らす。
この小隊は個々の能力は高い方なのだが、
チームワークが取れず落ち零れの烙印を張られているのだ。
先程の遣り取り等は日常茶飯事であり、
小隊長として任命されていたフランチェスカは頭を悩ませていた。
暫くして、教官が苦虫を噛み潰したような顔をして入ってくる。
「お前達!せっかくの休日が潰れてご機嫌斜めの様だな。
――だが、任官されたらコレ位の事は日常茶飯事だ!これも訓練という奴だ慣れておけ。
……しかし、退役した私まで巻き込む必要は無いだろう……。
一体どういう了見なんだ?私も休日を返上して付き合えとは……」
教官も休日を潰されたらしく、ブツブツ言いながらフランチェスカ達に概要を説明する。
要約すると、基地に訪れたVIPが、訓練兵の錬度を見るべくこの場を取り繕ったらしい。
そして偶々選ばれたのが、フランチェスカの小隊を選んだらしい。
らしい、だの、偶々、だの、ハッキリしない様子を教官も不審に思ったのだが、
副指令直々の指令であり、直接口頭で伝えられたので断るに断れなかったのだ。
教官からシミュレータに入る様指示され、箇体の中に入ったフランチェスカ達は、
待機時間の間、今から戦う相手について話し合う事にした。
「しかし、解りませんね。こっちは4機居て、相手は1機。
しかも機体が旧式の『Gust』の様です。此方が幾ら訓練兵とは言え、機体は2世代機…。
幾ら正規兵でもこれは少し厳しいと思うのですが……。」
「肯定する。でもそれ以上に、相手が誰か気になる。
この人数であればわざわざシミュレータ室を貸しきってやる訳が無い。
それに十分な空き箇体があるのに、
この部屋に相手の姿も見あたらない。不可解な点が多すぎる。
ともかく、休日を潰した事は万死に値する。叩き潰すだけ。」
「イグナチェフも偶には良いこと言うじゃないか!
ま、アタシは細かい事はどうでもいいんだ。
こっちは、休日潰されてイライラしてるからね。せいぜいぶちのめしてやるさ!」
敵の敵は味方。とでも言うのだろうか
折角の休日を潰された恨みを対戦相手へぶつけるべく、
ソフィアとエリスも、今回ばかりは共同戦線を結んだようだ。
それを見ていた教官は、呆れながら彼女らに開始の述べを伝える。
「お前達……その状態を、何時も維持してくれればいいのだがな……。
まぁいい、準備が出来た様だし始めるぞ。
――我々の休日を潰した愚か者を徹底的に教育してやれ!」
「「「「了解ッ!」」」」
シミュレーターが起動すると、体が自由落下していく感覚と供に、
彼女達に仮想空間へと引き込まれて行く感覚が奔る。
暫くして戦場の状況が構築され、訓練で見慣れた黄土色の空へと場面が移り変わると、
フランチェスカは全員の体勢が整ったのを確認し、隊員達に指示を放っていく。
「α1(フランチェスカ)より各機へ。α2(エリス)は先行して突撃、一気に攻め立てます。
α3(ルーシー)と私は後方で電子戦機の護衛、α4(ソフィア)は相手にEA(電子攻撃)を。」
「α2(3)(4)了解!」
彼女達は己の役割を果たすべく、
敵に向かって爆音を轟かせながら一気に距離を詰めていく。
α4は敵を索敵をする為、レーダーに目を走らせたのだが、
先程の位置から敵のマーカーが微動だせず、こちらを待ち受けている事が分かる。
「敵が動いていない…?この人数差で迎撃体勢を取る…何かおかしい…。
α1、ここは4人で固まって安全策を取る事を進言する。」
「おいおい、ソフィアちゃんよ。ビビってんのかい?ハッ…噂をすれば、だ!
α2、タリホー(敵を目視で確認)!
――ん……この距離で近接兵装だと!?舐めやがって…上等だよ!」
此方を誘っているのか射撃兵器の有効射程にも拘らず、
相手は機体を左右に揺らしながら短刀を装備し、様子を伺っている。
その態度が気に入らない、とばかりに、
ソフィアの言葉を無視してエリスは急加速して敵に突っ込み、
近接短刀を力任せに打ち付けていく。
小細工無しの荒々しい太刀筋で、一薙ぎ、二薙ぎ、と斬り払うエリスだったが、
相手はその猛攻を、ひらり、ひらりと木の葉が風で舞う様に交わしつつ、
手にした短刀で、攻撃を捌きながら、的確に反撃を行ってくる。
致命傷にならない様な反撃であったが、的確にダメージを重ねていく相手に
打って変わってエリスの攻撃はカスりもせず、エリスの機体だけが一方的に傷だらけになっていった。
――そう、相手はエリスを弄んでいる。
エリスが攻撃を止めると、自分も攻撃を止め、
短刀をくるくると回しながらエリスの出方を伺い始めるのだ。
余裕を出している敵に、フランチェスカ達も支援射撃を行おうとするのだが、
エリスの機体が壁となってIFF(敵味方識別装置)が作動してしまい、
援護射撃をする事が出来ない。
「α2!そこに居られると私達が攻撃できないよ!1回下がって体勢を立て直してっ!」
ルーシーが必死になって叫ぶが、敵に弄ばれて居る事でエリスの怒りは頂点に達しており、
はい、そうですか。と、人の話など聞く余裕は無くなっていた。
「ふざけるなぁっ!ここまで馬鹿にされてッ…!こいつッ…当たれぇ!」
怒りに任せたエリスの一撃が大振りになった
―――瞬間、相手はカウンターでエリスの機体の腕を切り落とし、
体勢の崩れた機体をフランチェスカの方に蹴っ飛ばす。
それを避ける訳にもいかず、エリスの機体をフランチェスカが慌てて受け止める。
「なっ……うぁぁぁっ!!畜生ッ…すまん!ペンドラゴン。」
「ぐッ…大丈夫ですか?……しまった!これじゃ後衛の2人がッ!」
その隙を相手は見逃さず、
一気に後衛の2人に手にしたライフルを撃ちながら接近戦に持ち込もうとしている。
突然の攻撃にルーシー機は何もする事が出来ず、弾丸の洗礼を浴びてしまい、
無力化された後に、すれ違い様に短刀で胸部を一突きされ、撃墜されてしまった。
「あうう…ごめんね…みんな。」
「リプトン…!くっ…せめて時間稼ぎ位…!」
ソフィアも必死になって応戦するが、
1対1の戦いを想定していないソフィアの機体では対応する事が出来ず、
あっという間に短刀で機体を貫かれ地面に堕とされて往く。
エリスの機体を抱えていたフランチェスカと、
機体がボロボロになっていたエリス達は、
指を咥えて見ている事しか出来ず、悔しそうに敵を睨み付ける。
「くっ……エリス、支援をお願いします!こうなれば刺し違えてでもッ!」
フランチェスカは機体を急加速させ敵目掛けて突撃……しようとしたのだが、
突然、フランチェスカに視界目一杯に尖ったモノが映り込んだかと思うと、
強烈な衝撃と共に後ろに吹き飛ばされ、
己の身に何が起こったのか解らず、
フランチェスカは撃墜判定を出されてしまったのだった。
「短刀の投擲……?は……は……ありえないってば…。」
一人、取り残されたエリスは乾いた笑いを漏らしていた。
――そう、相手は手にしていた短刀をこちらに向かって投擲したのだ。
互いの持っていた運動エネルギーが加算された、
弾丸とは比べ物にならない質量を持ったソレ、は
GFを一撃で屠る程の威力を持って、フランチェスカに襲い掛かったのだ。
だが、普通はこんな事は 『あり得ない』。
GF同士の戦闘は、通常の携行火器を当てるのにも、そう簡単にはいかないのである。
ましてや、構えて、狙いを定め、投擲するという3つの動作を取る必要があり、
FCS(火器管制システム)の補助が効かない投擲を狙って当てる確立など、
天文学的数字に等しいのである。
自分達と相手との圧倒的な実力差を実感し、絶望に叩き落されるエリス。
「これじゃ、妹達を守れないよ…畜生…。」
エリスは不甲斐ない自分を実感し、唇をかみ締める。
そうして、既に戦闘能力を失っていたエリスの機体はあっけなく撃墜され、
少女達の心身は打ちのめされて、シミュレーターは終了した。
――尤も、この後直ぐに、対戦相手の主と出会う事となるのだが、それは又別の話。
近いうちに、兵器解説や、人物図等を投稿しようと思います。
そして、投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。