第7話 山雨来たらんと欲して風楼に満つ
2日1回の更新ペースで出来たらな。と思っています。
ケインは基地に到着した後、武とナガセと別れ会談を行う為、司令官室を訪れた。
司令官室に入ると、デスクには書類が山積みになっており、その傍らには、
山の様な吸殻が詰まった灰皿、大量の缶コーヒーの空き缶と、
空になったピルケースが散乱している。
デスクに備え付けてある肘掛け椅子には、
苦虫を噛み潰した様な表情をしていた士官用の軍服を着た男が座りこちらを睨み付ける。
男はかなりの年配者なのか、頭にはかなりの量の白髪が目立っており、
地毛であったであろう茶髪は、微かにしか見て取れない。
しかしながら、隻眼と古傷が目立つ顔、眉間に刻まれた深い皺、
服の上からでも分かる鍛え上げられた肉体は
40台半ばとは思えない、歴戦の兵を感じさせる。
「…で、この坊主を軍に志願させるのか?」
呆れた声を上げながら、この基地の副指令官、モーガン・ボガードは
デスクに肘を付き、頭痛を堪える様に頭を抑える。
厳格な軍人の様な喋り方ではなく、そこらのチンピラの様な喋りであったが、
ケインは気にした様子も無い。
「ひょんな事から知り合ってね。ああ、孤児院を転々としていたみたいだから、
本籍は不明。その代わりに私が保証人になっている。
働き口を探していたみたいだから、本人の希望もあって参上したという訳さ。」
「…はァ?本人の希望って……正気か?
ペンドラゴン財閥サマが保証人になるだけでも、
働き口なんて選り取り見取りだろうが。
お前さん直筆の推薦状もセットと着たもんだ。一体何者なんだ?このボーズ。」
モーガンは頭を抑えながら、焦れた様子でケインを問い詰めるが。
ケインも慣れた様子で、煙に巻いた様な態度を崩さず、ニヤニヤと笑みを浮べている。
モーガンは頭をガリガリ掻き毟りながら、我慢なら無い、といった様子で怒鳴りつける。
「俺がお前さんの妹の入隊を上層部に納得して貰うまで、
どれ程交渉したと思ってるんだ!?
その上今度は、身元不明の外国人を推薦だけでねじ込めと来た!
お前さんは俺に恨みでもあるのか!?え!」
権力者の無茶難題に、八つ当たりで机を叩くモーガンの事など
気にも留めず、ケインは話し続ける
「別に候補生に捻じ込めと言ってる訳じゃない。
正規の手続きを取って、任官してくれれば良い。
適正検査が通らなかったら弾いて貰って構わないさ。」
「……それなら問題はねェだろうが。
履歴書、見るぞ?……身体は…標準値ってトコか。年も…16?伸び盛りじゃねェか。
病気や障害も特に無し…と。ふぅん……素性がハッキリしないのを除けば優良物件だな。
尤も、ペンドラゴン財閥の推薦状付きだ。そこも問題にならねェ。
ま、俺から司令官に話を着けて置けば大丈夫だろう。」
モーガンは手にした資料を見ながら内線を掛けて、司令官に連絡を入れる。
昨日突然、ケインから、
『話があるからそちらに向かう。断ったら、君の給料減棒させるから。』
と、脅し紛いに会談を設定された時は、どうなる事思ったが、
結果的には良い買い物が出来たモーガンは、ホッとしていた。
が、次のケインの爆弾発言で、そんな気持ちは粉々に打ち砕かれる事になる。
「……そうだ!ついでに今日中に、
匿名性が高い場所のGFシミュレーターを1台貸しきっておいてくれたまえ。
フランチェスカも、上官命令で連れてきてくれ。じゃ、最優先で頼むぞ。
都合が付いたら、連絡宜しく。」
モーガンが、電話をして身動きが取れないのを良い事に、
ケインは言いたい事だけ言って、すたすたと部屋を去っていく。
モーガンは般若の様な形相を浮かべながらも、
鉄の意志で怒りを堪え、司令官への電話を切る。
「……あンの針金メガネ!副指令官を便利屋と勘違いしてるんじゃねェのか!?」
デスクを力任せに叩き、怒りを露わにしながら、
モーガンは休暇の予定を書いていた手帳を引き裂き、
テーブルの上にあった栄養剤と胃薬をかっ込んで、
想定される始末書の量と上層部への言い訳に頭を悩ませた。
―――そして、武とナガセはというと…。
ケインが用事がある。といって何処かに行ってしまった為、
一足先にフランチェスカに会う為、学院寮へと向かっていた。
「それにしても、僕と同じ位の年代の人達が多いですね。ここは軍の基地の筈じゃ?」
寮に向かう間、先程からすれ違うのは武と同世代の少年少女ばかり。
軍事基地だと聞いていた武は奇妙に思い、ナガセに聞いてみたのだ。
「昔は、英国空軍の主力基地だったらしいんですけどね。
諸々な事情で、今では訓練学校の様な物になってます。
正規兵と違って15歳から入れますから、
どちらかというと士官学校の様な物に近いですね。
今年から、名前も改修するみたいですし。」
「諸々な事情というのは?」
「当初は、GFの配備で手一杯でしたからね。
とても訓練兵を育成する余裕など無かったらしく、
一番設備が整っていたここで、訓練学校を兼任していたのですよ。
その流れでココが選ばれたらしいのですが…詳しい事は良く分かっていません。
この基地の資料室ならもう少し詳しく載っているでしょうが……。
おっと、どうやら目的地についた様ですね。」
いつの間にか、寮に辿りついていたらしい。
目の前には兵舎を改装されたとは思えない、4階建ての旅館の様な作りの寮があった。
中に入り、ナガセさんが寮母らしき人物に許可証を見せ何かを話すと、
寮母さん?が内線を使って、何処かに連絡している。
暫く話合っていたのだが、残念そうな面持ちで、ナガセはこちらに戻ってくる。
「今は不在らしく、寮に戻って来たら連絡を下さるそうです。
ケイン様と、連絡が取れましたので、とりあえず合流致しましょう。」
フランチェスカに会えなかったのは残念だったが、
軍に入るならば、いずれ会う機会があるだろう。
そう思いながら、武はケインと合流する事にした。
ケインが集合場所に指定したのは、この基地の中でも、
他とは雰囲気が違う一角であった。
意図的に、周囲の建物と距離が取られており、
正規軍人と思える兵士が周囲を警備している。
とても武達が入れる様な雰囲気ではなかったが、
ナガセさんが許可書を見せると、すんなりと中に通してくれる。
奥に案内された場所では、ケインと、頭を抑えているモーガンが待っていた。
「ご苦労様。フランチェスカも後から来るよ。
ナガセ達とはすれ違いになってしまったみたいだね。
君も、もっと気を利かせる事は出来ないのかね?
ああ、武、紹介しよう。この隣にいるのが、基地の副指令、モーガン・ボガードだ。
軍人らしく、気の利かない奴だが、一応、君の上官になる男だ。」
「…手前ェが!最優先事項ッて!言ったんだろうが!!クソタレが…覚えてろ…。
お前が草薙 武……か?一応、この基地の副指令だ。
とりあえず話は後だ。付いて来い。」
モーガンは、武達を急かす様にエレベーターまで連れて行き、
階を指定するボタン部分にカードキーを挿し込む。
その後、エレベーターを使い、武達は地下に降りて行く。
目的の階に到着し、エレベーターから降りて暫く進むと、
大人が丸々入れる様な巨大なカプセルのある部屋に、武達は連れてこられた。
「草薙 武、これからお前さんには、この針金メガネの指示で、
GFのシミュレーターを体験して貰う。
バイタルデータや同調率なんかは、
こっちでモニタリングしてるから遠慮無くやってくれ。
中にあるヘッドギアを被れば、そのまま出来るはずだ。じゃ、いくぞ。
…そんな顔するんじゃねェ。恨むんなら、そこの針金メガネを恨んでくれ。」
武に反論する暇を与えずモーガンは武をカプセルに押し込むと、無理やり蓋をする。
中に閉じ込められた武は、仕方なく、ヘッドギアを被る事にした。
(これはケインさんの仕業だったのか…それにしても
ネットダイブ用のヘッドギアと似てるなぁ。
ケインさんの言ってたVRの軍事技術ってこれの事だったのかな。)
手馴れた手つきでヘッドギアを装着し、壁に寄りかかると、
機械で装着を確認したのか、モーガンから、スピーカーで音声が入る。
『初めてにしては随分すんなり装着出来たな…。
まァ…準備が出来たみたいだな。それじゃ始めるぞ。』
すると、体がすとん、と落ちていく様な感覚と共に、意識が電子の海に沈んでいく。
こんな感覚まで似なくてもいいのに…と思う武であった。
次話はいよいよ戦闘です。
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