第97話:還暦の定礎(ザ・ホーム・ファンデーション) ―59歳、自分のために「一尺の土」を掘る―
第97話:還暦の定礎 ―59歳、自分のために「一尺の土」を掘る―
1. 巡回監督の「帰宅」
盆山茂、59歳。還暦を翌年に控えた冬。
彼は、かつて自分が世界を救い始めた「始まりの地」――サンクチュアリの北側にある、日当たりの良い丘に戻ってきた。
「……ベア。……俺たちの旅も、ここらで一旦『休憩』だ。……誰かのためじゃねえ、自分たちのための『拠点』を作るぞ」
そのニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
「監督が自分の家を建てる!」
ドワーフのガムリ、エルフのアイリス、弟子のテオ、そしてかつて彼が救った数え切れないほどの人々が、お祝いの品を手に集まってきた。
2. 施工:全種族合同・奉納「セルフビルド」
盆山は当初、一人で建てるつもりだった。しかし、丘に着いた彼が見たのは、世界中の名だたる職人たちが、盆山の指示を待って整列している姿だった。
「……監督。……あんた、俺たちに『道』をくれただろ? ……今度は、俺たちが監督に『屋根』を贈る番だ」
ガムリが、ドワーフの国で最も堅牢な「金剛石の定礎」を担いで笑う。
盆山は、渋い顔をしながらも、嬉しさを隠せなかった。
「……まったく。……勝手に現場に入るなと言っただろうが。……いいか、やるなら俺の『設計』を1ミリも外すんじゃねえぞ!」
• 基礎: ドワーフによる耐震・耐魔導・永久基礎。
• 建材: エルフの森から、精霊が自ら「家になりたい」と志願した神木。
• 外壁: 帝国最高の左官たちが仕上げる、呼吸する魔導漆喰。
• 設備: ルナとアイリスが設計した、月面のエネルギーと同期する全自動環境制御。
3. 59歳の職人談義:『家』は人生の完工図
数ヶ月後、丘の上に小さな、しかし世界で最も「堅牢」で「温かい」平屋が完成した。
盆山は、玄関の柱に自分の身長と、ベアの身長を刻んだ。
「……マスター。……この家には、世界中の感謝が詰まっています。……重すぎて、床が抜けないか心配です」
「……ハッ。……抜けるわけねえだろ。……俺が打った基礎だぞ。……それに、これだけの感謝があるなら、この先何があっても、俺たちは独りじゃねえってことだ」
還暦を目前にした盆山は、玄関のポーチに腰掛け、ベアが淹れた熱いお茶を啜りながら、眼下に広がる輝く世界を眺めた。
かつての穴掘りは、今や星の管理人となり、そしてようやく「一人の住人」に戻った。
「……ご安全に。……明日も、いい日になりそうだな」
第97話、完。




