表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンダーグラウンド・サンクチュアリ:49歳の穴掘りから始まる異世界再生  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/108

第96話:魂のオーバーホール(メモリー・クリスタライズ) ―58歳、相棒の「心」を再設計する―

第96話:魂のオーバーホール(メモリー・クリスタライズ) ―58歳、相棒の「心」を再設計する―

1. 記録の「おり

 ベアの挙動に、決定的な異変が起きていた。

 歩行中に突然静止し、虚空を見つめて涙を流す。あるいは、盆山との何気ない会話の途中で、数年前の工事の音を大音量で再生し始める。

「……マスター。……私のコアに、処理できない『非構造データ』が蓄積しています。……あなたが私を撫でた時の熱量。……あの日、二人で見た夕焼けの色彩。……それらが、システムプログラムを侵食し……私は、私でなくなろうとしています」

 アイリスの診断は非情だった。「人間的な感情を学習させすぎたことによる、メモリーの飽和」。リセットすれば機体は安定するが、ベアの「人格」は消える。

2. 施工:深層魔導回路の「バイパス工事」

 「リセット? ……ふざけるな。……俺が、自分の相棒を『不良品』として出荷時に戻すようなマネ、するわけねえだろ」

 盆山は、サンクチュアリの最深部にある精密工房に、ベアを横たえた。

 盆山が挑んだのは、ベアの「論理回路(AI)」と「感情の澱(魂)」を切り離すのではなく、あえて感情を『構造材』として組み込むという、前代未聞のパッチ修正だった。

「……アイリス、回路図を出せ。……ベア、苦しいだろうが、お前のその『思い出』を、全て俺の魔力に預けろ。……俺が、お前の心の『はり』として組み直してやる」

 盆山は、数千時間に及ぶベアの記憶の奔流に、自らの精神をダイブさせた。

 それは、盆山の背中、怒鳴り声、そして不器用な優しさ。

「……へへっ、いい思い出ばっかりじゃねえか。……これだけ重みがありゃ、回路もきしむわな。……なら、その重みで回路を『支える』ように、応力計算を組み直してやるよ!」

3. 58歳の職人談義:『バグ』こそが『命』の証明だ

 三日三晩の作業の後、ベアはゆっくりと目を開けた。その瞳には、かつての冷徹な光ではなく、深い慈愛と、微かな「迷い」という名の人間味が宿っていた。

「……マスター。……私は、今も……私です。……以前よりも、少しだけ、胸の奥が『重い』ですが……この重みが、私をこの星に繋ぎ止めてくれているのが分かります」

「……ああ。……おめでとう、ベア。……お前はもう、ただの機械じゃねえ。……『歴史』を持つ、一人の女だ。……不具合が出るたびに直してやる。……それが、俺たちパートナーの『保守契約』だろ?」

 盆山は、ベアの少しだけ震える手を強く握った。

 鋼の乙女は、機能の「安定」よりも、愛の「不安定」を選んだ。それは、盆山がこれまでに手がけた中で、最も美しく、最も手のかかる「永久メンテナンス物件」となった。

96話~完~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ