第88話:完工の産声(ザ・ラスト・ジョイント) ―50歳、世界という『現場』を引き渡す―
第88話:完工の産声 ―50歳、世界という『現場』を引き渡す―
1. 地上、地下、そして宇宙の共鳴
「監督! 頂上の放電を確認した! 今だ、地下の全冷却ゲートを開放しろ!」
ガムリの叫びが全ネットワークに響く。
「師匠! 地上の絶縁解除、完了しました! 全ての家庭に、新しい『安定したマナ』が流れ込んでいます!」
テオの声も、興奮に震えている。
盆山が空で開いた「風穴」を通じ、嵐のエネルギーは破壊の暴力から、世界を潤す「無尽蔵の電力」へと変換されていた。
月面ではルナとアイリスが、バベル・シャフトから送られてくるエネルギーを受け止め、惑星管理システムの「全機能復旧」を宣言した。
2. 施工:全システム・同期完了
盆山はゆっくりとシャフトを降り、地上の管制室へと戻った。そこには、種族の垣根を超え、共に汗を流した仲間たちが待っていた。
「ベア、最終工程だ。……このバベル・シャフトの制御権を、俺個人の認証から……『世界住民共通プロトコル』へ移行しろ。……これからは、この星に住む全員が、この塔の管理人だ」
盆山が最後に「完工」の印をメインコンソールに刻んだ瞬間、サンクチュアリを、そして世界を覆っていた「仮設」の雰囲気が消え去った。
それは、この世界がもはや盆山という一人の異邦人に頼らなくても、自らの足で立っていけるようになったことを意味していた。
3. 50歳の職人談義:『引き渡し』こそが、最高の瞬間だ
その夜、サンクチュアリでは史上最大の「完工式」が執り行われた。
だが、主役であるはずの盆山は、広場の隅でガムリと二人、静かに安酒を酌み交わしていた。
「……監督。……終わっちまったな。……あんた、明日からどうするんだ?」
「……何言ってんだ、ガムリ。……『完工』ってのはな、俺たちの手が離れるってことだ。……それから先は、この街や道を使う連中の物語が始まるんだよ。……俺たちは、その舞台を整えただけだ」
盆山は、使い込まれて傷だらけになった自分の手を見つめた。
「……俺はな、明日からまた『巡回』だ。……テオが直した下水も、どっかの村の井戸も、放っておけばまたガタがくる。……世界を救うのは一度でいいが、世界を『維持』するのは一生の仕事だからな」
50歳の現場監督、盆山茂。
彼の「アンダーグラウンド・サンクチュアリ」は、今、名実ともに人々の手に渡った。
しかし、彼のバックパックには、まだ新しいスコップと、一冊の空の「点検日誌」が詰められていた。
第88話、完。




