第86話:一万メートルの悲鳴(マナ・ストーム・オーバー・バベル) ―50歳、星の「過電流」を肌で感じる―
第86話:一万メートルの悲鳴 ―50歳、星の「過電流」を肌で感じる―
1. 予兆なき天災
「……空の様子がおかしい。ベア、気圧とマナ密度の相関を確認しろ。この『嫌な震え』は、地中の地震じゃねえ……空の地震だ」
盆山茂(50歳)は、地上拠点サンクチュアリの管制室で、窓の外に広がる不気味な紫色の雲を見上げていた。
数万年に一度と言われる「魔力大嵐」。それは大気中の魔力が極限まで凝縮し、物理的な破壊力を伴って降り注ぐ天文学的現象だった。そして、皮肉なことに、盆山が建てた世界一の長尺物――高さ1万メートルの『バベル・シャフト』が、世界最大の避雷針としてその膨大なエネルギーを引き寄せてしまっていた。
「マスター、警告です! シャフト上層部の魔力伝導率が許容限界を突破。このままでは、蓄積されたエネルギーが逆流し、地上全ての魔導回路を焼き切ります。……世界が、停電します!」
ベアの声に、かつてない緊迫感が走る。
2. 施工:超伝導防護壁の「強制放電工程」
盆山は即座にヘルメットを被り、顎紐を強く締めた。
「ガムリ、地下の『アース(接地)』を全開放しろ! 地底湖の水を冷却材として全循環させるんだ。……テオ、お前は地上拠点の全住民を避難させ、全魔導回路を物理的に『絶縁』して回れ。一箇所でも繋がってりゃ、そこから火を噴くぞ!」
盆山が立案したのは、バベル・シャフトを巨大な「放電路」として利用し、嵐のエネルギーを安全に地底へと逃がす捨て身の工事だった。
「ベア、上層部の『絶縁セグメント』が熱で焼き付いてやがる。自動制御が効かねえなら、俺が直接行って『物理的』にブレイカーを落としてくる」
「マスター、地上8000メートル以上は現在、魔力の乱気流で飛翔魔法も安定しません。生存確率は……」
「……確率なんてのは、現場じゃ『安全マージン』の一部に過ぎねえ。……死なねえための準備は、もうバックパックの中に詰めてある」
3. 50歳の職人談義:『一番高い場所』の責任
高速昇降機に飛び乗り、垂直の壁を駆け上がる盆山。高度が上がるにつれ、シャフト全体が「キィ、キィ」と、鋼材が悲鳴を上げるような音を立てていた。
「……いいか、ベア。……高い建物を作るってのは、景色を楽しむためじゃねえ。……その高さに見合うだけの『責任』を、誰かが引き受けるってことだ。……俺が建てたんだ。……俺が最後まで面倒を見るのは、当たり前の工期内保証だろ」
50歳の現場監督は、酸素が薄く、放電の火花が散る暗黒の空へと、単身で突っ込んでいった。
86話~完~




