第83話:凍てつくアーカイブ(北の最果ての禁域) ―50歳、先代の「設計ミス」を検分する―
第83話:凍てつくアーカイブ(北の最果ての禁域) ―50歳、先代の「設計ミス」を検分する―
1. 絶対零度の沈黙
「監督、ここから先は『熱』という概念が死んでるぜ。……俺たちの魔導ヒーターでも、出力の半分が空気に食われる」
ガムリが、防寒仕様のヘルメット越しに震える声で報告した。
盆山茂(50歳)は、雪上走行用に改造した「魔導ブルドーザー」の操縦席に座り、真っ白な地平線を睨んでいた。
辿り着いたのは、北緯80度。かつての超古代文明が、星のエネルギーを管理するために築いた中枢施設『アーカーシャ・ターミナル』の所在地である。アイリスの記憶によれば、数万年前、ここでの「ある工事」が引き金となって、世界は長い永夜と魔力の枯渇に陥ったという。
「……アイリス。あんたの先祖は、ここで何をしようとしたんだ?」
アイリスは、震える手でコンソールを指した。
「……星の核から直接エネルギーを吸い上げ、全土を『楽園化』しようとしたの。……でも、ある日突然、核の圧力が暴走して……」
2. 施工:永久凍土の「剥離」と地質調査
盆山はブルドーザーのブレードを降ろし、万年雪の下に眠る「先代の傷跡」を掘り起こした。
「ベア、熱線を最大出力で照射しろ。……氷を溶かすんじゃねえ、『昇華』させて一気に飛ばすんだ。……地表のコンクリートが見えるまでな」
現れたのは、直径数キロメートルに及ぶ、巨大な「ひび割れた基盤」だった。盆山は愛用の老眼鏡をかけ、ひび割れの断面を這うようにして観察した。
「……なるほどな。こりゃ暴走じゃねえ。……単なる『排熱不足』だ。……エネルギーを取り出すことばかり考えて、排熱用のダクトを設計図の半分しか作ってねえ。……おまけに、点検口すら一つもねえじゃねえか」
盆山が指摘したのは、あまりにも初歩的な、しかし大規模プロジェクトが陥りがちな「効率優先の設計ミス」だった。
「……いいか、アイリス。どんなにすごい魔法を使おうが、エネルギーを使えば必ず『ゴミ(熱)』が出る。……そのゴミをどう捨てるか考えねえ設計は、ただの『爆弾』なんだよ」
3. 50歳の職人談義:『負の遺産』の埋め戻し
盆山は施設の再起動ではなく、徹底した「封印工事」を選択した。
「今さらこれを使えるようにはできねえ。……だが、ここから漏れ続けている冷気を止めなきゃ、星の春は本物にならねえ。……ベア、断熱セラミックを10万トン用意しろ。……このひび割れ全部に『蓋』をして、永久に眠らせてやる」
数日間にわたる封印作業。かつての負の遺産は、盆山の手によって「無害な石の塊」へと変えられた。
「……監督。先祖が隠したかったのは、このみっともないミスだったのかもしれないわね」
アイリスが寂しそうに笑う。
「……ミスは誰にでもある。……だが、それを隠すと『呪い』になる。……表に出して、直し方を遺せば、それは『教訓』になるんだ。……さあ、北の風が変わったぞ。……帰って、テオの初仕事の結果でも見に行こうか」
83話~完~




