第82話:全土総点検(メンテナンス・カーニバル) ―50歳、世界を丸ごと「磨き上げる」―
第82話:全土総点検 ―50歳、世界を丸ごと「磨き上げる」―
1. 惑星規模の「一斉休業」
「……よし、今週は仕事(新規工事)は一切無しだ! ……その代わり、世界中のネジ一つ、電球一個まで磨き上げるぞ! ……名付けて**『全惑星・メンテナンス・ウィーク』**だ!」
盆山の号令により、サンクチュアリ全土の機能が一時的に「保存モード」に切り替わった。
これは、これまで休む間もなく稼働し続けてきた惑星規模のインフラを、総点検するための「大型連休」でもあった。
2. 施工:住民参加型の「愛着工事」
盆山がこだわったのは、プロの職人だけでなく、一般の住民も参加させることだった。
「ベア、各家庭に『家庭用・潤滑油』と『磨き布』を配れ。……自分の家の水道蛇口や、町の外灯を自分たちで手入れしてもらうんだ。……人に任せっきりじゃ、インフラは長持ちしねえ」
盆山自身は、かつて自分が最初に掘り抜いた、サンクチュアリの「第1号トンネル」へと向かった。
そこには、今や最新の魔導列車が走っているが、壁面の一部にはまだ盆山が手掘りした際のスジが残っている。
「……ガムリ。……お前、ここを覚えているか? ……魔法も何もなかった頃、お前と二人で震えながら掘った場所だ」
ガムリは、ピカピカに磨き上げたハンマーで壁を軽く叩いた。
「……忘れるわけねえだろ、監督。……ここがあったから、今の空があるんだ」
3. 50歳の職人談義:『祭』の終わり、『管理』の始まり
一週間の清掃期間が終わり、世界中の街灯が一斉に再点灯された。その光は、以前よりもどこか温かく、力強く感じられた。人々は自分たちで磨き上げたインフラに愛着を持ち、大切に使うことを学んだのだ。
「……マスター。……住民による自律的な保守点検により、今後10年の故障率が15%低下すると予測されました。……お祭り騒ぎに見えて、これこそが最強の『予防保全』ですね」
ベアが、少し汚れた顔で微笑む。
「……ああ。……直すだけが仕事じゃねえ。……『壊さないように使う心』を育てるまでが、現場監督の役目だ。……さて、世界も綺麗になったことだし。……明日は、少し遠くの『あの場所』を点検しに行こうか」
50歳の現場監督、盆山茂。
彼が磨き上げたのは、星の装置だけではなかった。
そこに住む人々の「誇り」という名の、錆びることのないエンジンだった。
第82話、完。




