第81話:二代目のスコップ(ヘリテージ・公募) ―50歳、現場監督の「椅子」を競売にかける―
第81話:二代目のスコップ(ヘリテージ・公募) ―50歳、現場監督の「椅子」を競売にかける―
1. 50代の「終活」と「希望」
月の裏側の危機を乗り越えた盆山は、一つの重大な決定を下した。
「……俺がいつまでも『監督』でいちゃ、この世界は俺のコピーにしかならねえ。……ベア、世界中に通達を出せ。……次代の現場監督……いや、星の管理者の『公募試験』を行う」
サンクチュアリの広場には、世界中から「志願者」が集まった。
魔導士、騎士、元帝国の技師、そしてかつて盆山が助けた少年テオ(第76話)。彼らが期待したのは「魔法の奥義」や「権力の継承」だった。だが、盆山が用意した試験内容は、あまりにも地味だった。
2. 施工:実技試験「1時間の排水溝清掃」
「……いいか、お前ら。最初の試験はこれだ。……ここにある、泥と油で詰まった排水溝を、1時間以内に『完璧に』通してみせろ。……魔法は禁止。使うのは、この古びたスコップとブラシ一本だ」
高名な魔導士たちは憤慨して去り、力の強い戦士たちは力任せにスコップを振るって溝を壊した。
その中で、少年テオと元帝国の老技師だけが、じっと水の流れを観察し、詰まりの「急所」を見極めていた。
「……テオ。……お前、なんでそこから手をつけた?」
盆山が尋ねる。
「……ここを先に抜かないと、奥の泥が流れないと思ったから。……あと、この溝の先にはおばあちゃんの家があるから、汚したくなかったんだ」
盆山は満足げに頷いた。
「……合格だ。……技術ってのはな、力でも知識でもねえ。……『その先にある暮らし』を想像する力のことだ。……お前らには、俺の『工程管理の極意』を全て叩き込んでやる」
3. 50歳の職人談義:『道具』よりも『心構え』を遺す
試験を終え、盆山は選ばれた数人の候補生たちに、自分の「使い古したヘルメット」を見せた。
「……俺が死んでも、このバベル・シャフトは残り続ける。……だが、それを直す『心』が途絶えたら、ただの粗大ゴミだ。……二代目になるってことは、世界で一番『泥臭い仕事』を引き受けるってことだ。……覚悟はいいか?」
候補生たちの力強い返事を聞きながら、盆山は少しだけ肩の荷が軽くなるのを感じた。
50歳の現場監督は、自分の「椅子」を譲る準備を始めることで、皮肉にもこれまでで最も「大きなインフラ」――すなわち『次世代』を築き始めていた。
81話~完~




