第74話:50歳の道具袋(ニュー・ギア) ―50歳、背負い袋一つで「現場」へ帰る―
第74話:50歳の道具袋 ―50歳、背負い袋一つで「現場」へ帰る―
1. 静かなる門出
空は白々と明け、サンクチュアリの巨大なドームにはまだ人工の朝焼けが灯る前。盆山茂(50歳)は、数時間前に迎えたばかりの誕生日の余韻を噛み締めながら、慣れ親しんだ自室の机に「引継書」と「現場監督のヘルメット」を置いた。
彼が背負ったのは、アイリスとガムリが夜なべして作り上げた、特製の「次元連結バックパック」一つだ。
「……さて、行くか。50代の初仕事は、どこにでもある『困りごと』の解決だ」
彼は正面玄関ではなく、自分が最初に掘り抜いた古い通気口から外へ出た。そこには、かつて彼が救った人々が平和に暮らす「日常」が広がっていた。彼が作り上げたインフラは、もはや風景の一部となり、彼が去ることに気づく者もいない。それが、盆山にとって最高の「完工祝い」だった。
2. 施工:50代の「標準装備」
盆山は草原を歩きながら、新しい相棒であるバックパックの中身を点検した。
「ベアは居ねえが、こいつがあれば大概の修理はできるな」
• 万能魔導スコップ・参型(折り畳み式): 重力制御機能をあえてオミットし、土の感触が直接手に伝わるよう調整されたプロ仕様。
• 高粘度・瞬間硬化魔導パテ: 水漏れから壁のひび割れ、果ては折れた農具の接合までこなす「魔法の接着剤」。
• 超硬質チタン合金製・下げ振り: 惑星の傾きではなく、目の前の柱の垂直を測るための、職人の魂。
• 圧縮酸素入り・安全靴(改): 長距離歩行でも疲れないよう、ソールに極小の重力反転素子が組み込まれている。
盆山が最初に行き着いたのは、サンクチュアリの勢力圏から少し外れた、国境付近の小さな宿場町だった。
そこでは、かつての戦争で使われた魔導兵器の残骸が道を塞ぎ、町の人々が泥だらけになって通行を確保しようとしていた。
3. 50歳の職人談義:『小さな穴』が未来を塞ぐ
「おじさん、危ないよ! そこは地盤が緩んでるんだ!」
一人の少年が盆山を呼び止めた。見れば、道の真ん中に直径3メートルほどの大きな陥没が開いている。
「……ほう、こいつは『水みち』が変わっちまったな。地表を直すだけじゃ、また明日には落ちるぞ」
盆山はバックパックから「地質調査用・魔導ハンマー」を取り出し、周囲の地面を軽く叩いた。
「……いいか、坊主。大きい山を動かすのも、この小さな穴を塞ぐのも、理屈は同じだ。……まず『原因(根っこ)』を見つけ、そこに適切な『処置』をする。……50歳になった俺の最初の仕事、見せてやるよ」
盆山は魔法で岩を消し飛ばすのではなく、あえて手作業で崩れた土を取り除き、地下の排水管の詰まりを特定した。その丁寧な手際に、町の人々が一人、また一人と足を止め、伝説の男とは知らずにその「職人の背中」に見惚れていた。
74話~完~




