第68話:深海の浮上物(サルベージ・シティ) ―49歳、先代の「負の遺産」と対峙する―
第68話:深海の浮上物 ―49歳、先代の「負の遺産」と対峙する―
1. 地鳴りと共に現れた影
「監督! 大変だ、地軸修正(第67話)の影響で海流が変わったせいか、大陸の南、通称『絶望海溝』から、山みてえなデカい島が浮き上がってきやがった!」
ガムリが月面事務所のモニターを叩き、血相を変えて報告してきた。
盆山茂(49歳)は、月面製のインスタント味噌汁を啜りながら、そのモニターを凝視した。
「……島じゃねえな。ベア、拡大しろ。……この錆びついた金属の質感、そして甲板にある無数のクレーン跡。……ありゃあ、巨大な『メガフロート(超大型浮体式構造物)』だ」
浮上したのは、全長5キロを超える移動要塞都市『レヴィアタン』。かつての文明が、地上を捨てて海へ逃れるために建造した「実験都市」のなれの果てだった。しかし、その艦橋には、盆山がよく知る「日本のゼネコン」のマークに似た、古びたエンブレムが刻まれていた。
2. 施工:不安定な浮体への「緊急接岸」
盆山は即座に月面から探査艇で現場へ急行した。
「ルナ、この都市の浮力バランスを計算しろ。……浸水がひどい。このままじゃ、せっかく浮上したのに数日で再沈没(再入場)だぞ」
盆山が着手したのは、巨大な「止水」と「排水」の突貫工事だった。
「ガムリ、バベル・シャフト(第55話)から大量の『水中硬化型・魔導コンクリート』を投下させろ。……船底の亀裂を外側からまるごと固めてしまうんだ。……ベア、内部の排水ポンプ室を特定しろ。……古代のポンプが動かねえなら、俺たちの魔法で直接『強制排水』をかける!」
波に揺れる巨大な鉄の塊に飛び移り、盆山は泥にまみれながらバルブを開け、配管を叩いた。
「いいか、どんなにデカい都市でも、基本は『水仕舞い(みずじまい)』だ。……水が入る場所を塞ぎ、溜まった水を出す。……これさえできれば、どんなボロ船でも沈まねえんだよ」
3. 49歳の職人談義:『解体』か『再生』か
数時間の死闘の末、レヴィアタンは海面に安定して浮かんだ。
盆山は、錆びついた艦橋の玉座に座る「一体のミイラ化した男」を見つけた。その男は、かつて盆山と同じく、異世界から召喚された「昭和の現場監督」の末路だった。
「……監督。この人、あんたの先輩か?」
ガムリが静かに尋ねる。
「……ああ。……バブルの頃の連中だな。……ひたすらデカいもの、派手なものを作って、管理のことを考えずに使い捨てた。……この街は、その『やりっ放し』のツケを払わされたんだな。……いいか、ガムリ。俺たちはこいつを兵器としては使わねえ。……世界最高の『海上物流ターミナル』としてリフォームしてやる。……それが、同業者としての弔いだ」
49歳の現場監督は、先代が残した「負の遺産」を、新しい世界の「インフラ」として再定義し、再生させることを誓った。
68話~完~




