第67話:大地の水平出し(プラネタリー・レベリング) ―49歳、星の傾きを「一尺」直す―
第67話:大地の水平出し(プラネタリー・レベリング) ―49歳、星の傾きを「一尺」直す―
1. 狂った季節の根本原因
「……監督、ルナの解析で判明しました。……この惑星の地軸が、数万年前の衝撃で本来の角度から『3.2度』傾いています。……これが、極地方の氷融解と、中緯度地域の異常気象、そして『魔力の偏り』の根本原因です」
アイリスが、真っ赤な警告が表示された惑星模型を提示した。
地軸の傾き。それは、いかなる魔法や土木技術をもってしても不可能に思える「天文学的な欠陥」だった。
盆山茂(49歳)は、愛用の下げ振り(垂直を測る道具)をじっと見つめ、不敵に笑った。
「……なるほどな。……要するに、この星全体が『床下沈下』を起こして、傾いて建ってるってことだろ? ……なら、やり方は一つだ。……ジャッキアップして、水平を出し直す」
2. 施工:月面推進器による「重力トラクター工法」
盆山が提案したのは、月そのものを「巨大な重力ジャッキ」として利用する前代未聞の工事だった。
「アイリス、月の地下にある『惑星推進器』を起動しろ。……月を回すんじゃねえ。……月から地上に向けて、超指向性の『重力ビーム』を照射し、惑星の地殻を優しく、だが確実に引き上げるんだ」
盆山はルナとベアトリーチェに、惑星全土の「地圧バランス」をリアルタイムで計算させた。
「ガムリ、ビームの照射地点に注意しろ。……急に引き上げれば大地震が起きる。……地球の自転に合わせて、数ミリずつ、数ヶ月かけて『じわり』と重力をかけるんだ。……住宅の地盤修正と同じ、繊細な作業だぞ」
盆山は月面コマンドセンターのレバーを握り、自ら「星の水平」を調整し始めた。
月面から放たれる目に見えない重力の糸が、惑星の歪みをゆっくりと矯正していく。
3. 49歳の職人談義:『水平』が世界の基準だ
「……監督。星をジャッキアップするなんて、あんた、自分が何してるか分かってんのか?」
ガムリが、震える手でモニターを見守る。
「……分かってるよ。……『真っ直ぐな場所』を作ってるんだ。……どんな立派な家も、地面が傾いてりゃいつか壊れる。……世界も同じだ。……春夏秋冬が正しく巡り、太陽が正しく昇る。……そんな『当たり前の基準』を、俺はこの手で取り戻したいんだよ」
盆山の指先ひとつで、惑星の傾きが「0.01秒(角度)」修正された。
その瞬間、地上の凍てつく空気が和らぎ、停滞していた海流が動き始めた。
49歳の現場監督は、ついに「惑星という名の現場」そのものを、正しい設計図の姿へと引き戻そうとしていた。
第67話、完。




