第66話:光の糸(インタープラネタリー・リモート) ―49歳、38万キロの「進捗報告」を繋ぐ―
第66話:光の糸 ―49歳、38万キロの「進捗報告」を繋ぐ―
1. 月面勤務の「孤独」と情報の遅延
「監督……月は快適だが、地上の様子が分からねえのは精神的にくるぜ。……昨日は俺の孫の誕生日だったんだが、お祝いの通信を送るのにも魔力パルスが乱れて、声がボロボロだった」
ガムリが、月面事務所の片隅で寂しそうに酒を煽っていた。
月と地上の間には38万キロの距離がある。既存の通信手段ではタイムラグやノイズが激しく、大規模な同時並行工事を行うには「情報の鮮度」が足りなかった。
「……現場の士気に関わる問題だな。……家族の声も届かねえ場所で、いい仕事はできねえ。……ベア、ルナ。……地球と月を直結する、大容量の**『超長距離・魔導ホログラム回線』**を敷設するぞ」
2. 施工:ミラー・サーバー経由の「空間同期ネットワーク」
盆山が目をつけたのは、第62話で見つけた「第2の月」だった。
「ベア、ミラー・サーバーを巨大な『中継ルーター』に改造しろ。……地上1万メートルのバベル・シャフト(第55話)と、月のルナ・サーバーを、光よりも速い『量子魔力もつれ』でペアリングするんだ」
盆山がこだわったのは、単なる通話ではなく「実在感」だった。
「ルナ、空間投影技術をフル活用しろ。……月面事務所にいながら、地上の食堂の匂いや空気の揺らぎまで再現するんだ。……名付けて**『どこでも現場事務所』**だ」
さらに盆山は、地上のサンクチュアリの各所に、月面と繋がる「どこでも窓」を設置した。
そこに映し出されるのは、月面で泥にまみれて働く盆山やガムリの姿、そして月の窓から見える青い地球の絶景だった。
3. 49歳の職人談義:『報告・連絡・相談』のインフラ
回線が開通した瞬間、月面事務所のロビーに地上の賑わいがホログラムで現れた。
「おーい、監督! 今日の日替わり定食はトンカツだぞ!」
地上の料理長が、まるで隣にいるかのように話しかけてくる。
「……監督。これなら、離れてても一緒に仕事してる気分になれるな」
ガムリが、ホログラムの孫と「ハイタッチ(映像の干渉)」をして目を細める。
「……いいか。情報のインフラってのは、ただの便利な道具じゃねえ。……『一人じゃない』ってことを確認するための命綱なんだよ。……報・連・相が完璧に回る現場に、事故は起きねえ。……さあ、世界中をこの光の糸で繋いで、一気に惑星改修の同時着工に入るぞ!」
49歳の現場監督が繋いだ38万キロの絆。それは、物理的な距離を超えて、惑星全体を一丸とする「最強のチーム」を作り上げた。
66話~完~




