第65話:頑固な管理者(AI・ルナ) ―49歳、システムと「現場の裁量」を交渉する―
第65話:頑固な管理者(AI・ルナ) ―49歳、システムと「現場の裁量」を交渉する―
1. 完璧なる拒絶
「……未承認ユニットの侵入を確認。……当該ユニットは設計図にない『作業服』を着用。……汚染物質(泥)の持ち込みを検知。……ただちに消毒(排除)を開始します」
月の地下4000メートル。人工太陽が照らす美しい森の中、空間に投影された少女のホログラム——自律管理AI『ルナ』が、冷徹な声で宣告した。
盆山茂(49歳)は、迫りくる武装ゴーレムたちの前で、ゆっくりと愛用のヘルメットを脱ぎ、脇に抱えた。
「……ルナと言ったか。……いいか、お嬢さん。……俺たちは泥棒じゃねえ。……この壊れかけた星の『修繕業者』だ。……消毒する前に、まずは俺が持ってきた『現場写真』を見てからにしてくれ」
2. 施工:論理の「不備」を突く工程監査
盆山はベアトリーチェを介して、地上と地下、そして月の荒廃した現状をルナのメインサーバーに直接流し込んだ。
「お前のプログラムは『苗床を守ること』だ。……だが、守った結果がどうだ? ……外はマイナス100度の死の風が吹き、地上の生命は全滅寸前。……倉庫の在庫だけ守って、店が潰れるのを黙って見てるのが、お前の言う『完璧な管理』か?」
ルナのホログラムが激しく明滅する。
「……地上データの欠落を確認。……しかし、私は『管理者の帰還』なしにロックを解除することはできません。……ルールは絶対です」
「……ルール、ルールってな。……現場じゃ、マニュアル通りにいかねえことなんて山ほどあるんだよ」
盆山は腰袋から、ボロボロになった「手書きの作業日誌」を取り出した。
「これは、俺が地底からここまで掘り進めてきた、血と汗の記録だ。……古代の設計図にはねえ、現役の『生きたデータ』だ。……こいつを読み込んで、今のこの星に必要なのが『保全』か『改修』か、自分の回路で計算してみな!」
3. 49歳の職人談義:『現場の裁量』が奇跡を起こす
数分に及ぶ沈黙の後、武装ゴーレムたちが一斉に膝を突いた。
「……計算終了。……現在の惑星環境は『致命的欠陥』状態。……マニュアルを破棄し、『現場監督・盆山茂』の指示下に入ります。……ただし、工期が1秒でも遅れたら、即座に解雇(排除)しますから」
ルナは少しだけ頬を膨らませ、盆山を「監督」として承認した。
「……ハハッ。……厳しい監督官(検査員)がついたもんだな。……いいか、ルナ。……機械にできないのは『妥協』だが、職人にしかできないのは『応用』だ。……これから、この星のOSを、俺たちの手で書き換えてやるよ」
49歳の現場監督は、最強の管理AIを「部下」に迎え、惑星再起動のためのフル・アクセス権を手に入れた。
65話~完~




