第64話:月底の大空洞(ムーン・アビス・プロジェクト) ―49歳、1/6重力で「地底」を掘る―
第64話:月底の大空洞 ―49歳、1/6重力で「地底」を掘る―
1. 月面地下4000メートルの「謎の空間」
「マスター、興味深いデータです。……月面管理システムのセンサーが、足元……地下4000メートル付近に、計算外の『巨大な空洞』を検知しました。……それは単なる自然の空洞ではなく、人工的に整えられた『もう一つの地下都市』のように見えます」
ベアトリーチェが、月面事務所の床を指差して報告した。
アイリスが驚きに目を見開く。
「……そんな。私たちの記録にも、月の内部にそんな深度の施設を作った記録はないわ。……そこは、古代の『タブー』として封印されていた領域よ」
盆山は、愛用の魔導スコップ(月面仕様)の柄をトントンと叩いた。
「……封印、タブー。……現場監督が一番ワクワクする言葉だな。……中身が空っぽか、それとも宝の山か。……よし、**『月面垂直・大深度掘削』**を開始する!」
2. 施工:1/6重力下での「排土管理」とシールド工法
月の重力は地球の約6分の1。これは「掘削」という作業において、大きなメリットとデメリットをもたらした。
「いいか、ガムリ。……重力が軽いから、掘った土を持ち上げるのは楽だ。……だが、反動が効かねえ。……普通にドリルを回せば、機械の方が回っちまうぞ!」
盆山は、シールドマシンの側面に強力な「魔導クランプ」を装備し、壁面に自らをガッチリと固定しながら掘り進む工法を採用した。
「ベア、掘削面に『粉塵飛散防止結界』を張れ。……月面は真空だから、一度舞った埃はいつまでも落ちてこねえ。……視界不良は現場の敵だ。……常にクリーンな掘削面を維持しろ」
盆山は自ら操縦席に座り、地下4000メートルへと続く垂直穴をミリ単位の精度で刻んでいった。
「1/6重力なら、コンクリートの支保工も薄くて済む。……その分、スピードを上げろ!……古代人が何にビビってここを閉じたのか、俺が直接確かめてやる!」
3. 49歳の職人談義:『穴』の先に答えがある
数日間の掘削を経て、ドリルが最後の岩盤を貫いた。
カメラが映し出したのは、暗黒の空洞……ではなく、燦然と輝く「人工太陽」に照らされた、緑豊かな広大な空間だった。
そこには、地上のものとは全く異なる進化を遂げた「植物」と、それを管理する「見たこともない型式のゴーレム」たちの姿があった。
「……監督。……これ、月の中にもう一つの『地球』があるのか……?」
「……いや。……ここは『苗床』だ。……地上で何かあった時のために、予備の生態系をまるごと保存しておくための……惑星の『非常用倉庫』だな。……やれやれ、古代の連中も、保険(予備)の掛け方が豪快すぎて笑えてくるぜ」
49歳の現場監督、盆山茂。
彼は月の地下で、惑星復活のための「真のマスターデータ」を発掘した。
サンクチュアリの「穴掘り」は、ついに世界の生存を決定づける、究極の「資源管理」へとたどり着いた。
第64話、完。




