第63話:定期往来便(スペース・シャトル・サービス) ―49歳、星の間の「通勤ラッシュ」を捌く―
第63話:定期往来便 ―49歳、星の間の「通勤ラッシュ」を捌く―
1. 月面開発の労働力不足
「監督! 月面基地がデカくなりすぎて、俺とベアとアイリスだけじゃ掃除も配管チェックも追いつかねえ! ……地上から熟練のドワーフ共を連れてきてくれ!」
ガムリが、広大な月面ドックのメンテナンスに悲鳴を上げた。
月面環境の安定により、本格的な開拓フェーズに入ったサンクチュアリ。しかし、地上から月への移動は依然として、盆山たちが使った「決死の探査艇(第60話)」しか手段がなかった。
盆山は、月面事務所でカップ麺を啜りながら図面を広げた。
「……出張(出稼ぎ)の足がねえのは致命的だな。……よし、バベル・シャフトをレールにして、地上と月を片道3時間で結ぶ**『超高速・魔導往来船』**を就航させるぞ」
2. 施工:慣性制御客室と「駅弁」の導入
盆山が設計したのは、安全かつ快適、そして「誰でも乗れる」ユニバーサルデザインの宇宙船だった。
「ベア、船体全体を『重力補償結界』で包め。……急加速・急減速しても、中の乗客がコーヒーをこぼさねえ程度の安定感が必要だ。……G(重力加速度)を感じさせないのが、プロの輸送屋のプライドだ」
盆山が最もこだわったのは、客室の「居住性」だった。
「ガムリ、座席は第31話で作った人間工学に基づいたリクライニングシートを使え。……それと、これだ。……『窓』。……宇宙の景色が見えないと、客は不安になる。……古代素材の超強化透明セラミックを贅沢に使って、大パノラマを確保しろ」
さらに盆山は、日本の新幹線文化を参考に、出発ロビーでの「駅弁」販売を開始した。
「……地下都市の特産品を詰め込んだ、保存性の高い弁当だ。……宇宙の景色を見ながら美味いメシを食う。……それができれば、月面出張も『苦行』じゃなく『観光』に変わるんだよ」
3. 49歳の職人談義:『移動』は文化の架け橋だ
第一便が、地上ターミナルから射出された。
不安げな表情で乗り込んだドワーフや職人たちは、船内のあまりの快適さと、窓の外に広がる絶景に歓声を上げた。
「……監督。これ、もはや移動手段じゃねえな。……一種の『動くホテル』だぜ」
「……移動ってのはな、ストレスであっちゃいけねえんだ。……A地点からB地点へ行く間に、心がリフレッシュされる。……それが理想の公共交通だ。……これで月面は、地上の連中にとって『遠い神話の世界』から、『電車で行ける現場』になった。……人の流れが、世界を新しくするんだよ」
49歳の現場監督が整備した「星間定期便」。それは、地上と宇宙の距離を物理的に、そして心理的に消し去っていった。63話~完~




