第62話:幽霊の月(ゴースト・サーバー) ―49歳、不可視の「欠陥」をあぶり出す―
第62話:幽霊の月 ―49歳、不可視の「欠陥」をあぶり出す―
1. 観測データの「ズレ」と第2の影
「監督、見てくれ。月面のメインコンピューターが吐き出した重力計算が、どうしても現実と合わねえ。……この空域に、目に見えねえ『何か巨大な塊』が浮いてやがる」
ガムリが、月面事務所のホログラムモニターを指差した。
月面管理システム(第60話)の完全復旧により、惑星周辺の精緻なスキャンが可能になった結果、正体不明の「質量反応」が検知された。それは、月の軌道上に並走するように存在する、目に見えない「第2の月」だった。
盆山茂(49歳)は、月面事務所の窓から暗黒の宇宙を眺めた。
「……見えない欠陥ってのは、地中の空洞と同じだ。……放っておけば、いつか惑星全体の軌道が狂う。……アイリス、こいつはあんたの時代の『遺産』か?」
アイリスは顔を曇らせた。
「……あれは『ミラー・サーバー』。惑星のバックアップデータを物理的に保持する衛星よ。……でも、数万年前に光学迷彩が暴走して、制御不能したはず……」
2. 施工:広域魔導散布による「不可視構造物の可視化」
盆山は、見えない標的を捕捉するための「大規模測量工事」を立案した。
「ベア、バベル・シャフト(第55話)から射出する貨物コンテナに、以前開発した『魔導銀の粉末(第38話)』を大量に詰め込め。……そいつを第2の月の予想軌道上に撒き散らすんだ」
盆山が考えたのは、宇宙空間に「色粉」を撒くことで、透明な建物の輪郭を浮かび上がらせる手法だった。
「ガムリ、粉を撒くタイミングはコンマ1秒単位で合わせろ。……それと、月面から強力な『魔導レーザー』を照射して、粉末を熱定着させる。……宇宙という名の暗室で、巨大な現像作業をやるんだ!」
月面から放たれた光の柱が、宇宙空間を薙ぎ払う。すると、何もないはずの空間に、粉末が付着したことで「銀色に輝く幾何学的な球体」が姿を現した。それは月の半分ほどのサイズがある、鏡面仕上げの巨大な人工天体だった。
3. 49歳の職人談義:『見えない』は『無い』じゃない
「……出たな。あんなデカいもんが隠れてやがったのか」
ガムリが息を呑む。
「……いいか、ガムリ。……現場で一番怖いのは、『図面に載ってない埋設物』だ。……見えないからって無いものとして進めると、後で取り返しのつかない事故になる。……この第2の月は、いわば惑星の『隠し財産』だ。……こいつを再起動して、地上へのバックアップシステムを正常化させれば、もう二度と『永夜の呪い(第56話)』みたいなバグは起きねえ」
49歳の現場監督は、銀色に光るゴースト・サーバーを見つめ、次なる「乗り込み」の準備を指示した。彼にとって、透明な天体もまた、修繕すべき「公共施設」の一つに過ぎなかった。
62話~完~




