第61話:月面出張所(ムーン・ブランチ・オフィス) ―49歳、真空の「現場事務所」を建てる―
第61話:月面出張所 ―49歳、真空の「現場事務所」を建てる―
1. 月面定住の必要性
「監督、いくらシステムが直ったからって、いちいち地上から通うのは非効率すぎる。……ここ、寒りぃし、メシもねえ。……まともな『寝床』を作ってくれ!」
ガムリが、ヘルメットの中で鼻をすすりながら訴えた。
月の古代施設は機能こそ回復したが、居住区は崩壊しており、人間が長期滞在するには過酷すぎた。
「……分かってるよ。……現地に拠点がなきゃ、本格的な調査も修繕もできねえからな。……よし、ここにサンクチュアリの第14出張所、**『月面・極限環境ベース』**を建設する!」
2. 施工:月面レゴリス・3Dプリンティング建築
盆山が選んだのは、地球から資材を運ぶのではなく、月にある素材で街を作る「現地調達方式」だった。
「ベア、月面の砂を集めろ。……こいつを第30話で作ったプラズマ焼結炉で溶かし、魔法で粘度を調整する。……ガムリ、お前さんはそれを出力する『超巨大3Dプリント・ノズル』を操作しろ!」
盆山の指揮の下、無人の重機たちが月面を走り回り、幾何学的なドーム構造を次々と形作っていった。
「壁の厚さは1メートル。……宇宙線と隕石の衝撃を吸収するための『多層緩衝構造』だ。……内壁には、地下都市で作った『高断熱エアジェル』を吹き付けろ。……気密性は『クラス0(完全密閉)』。……1ミリの空気漏れも許さねえぞ」
さらに盆山は、ドームの中心に、サンクチュアリから持参した「世界樹の苗木」を植えた。
「アイリス、この部屋の気圧と酸素濃度を魔法で固定しろ。……ここに小さな『森』を作る。……月の砂の殺風景な景色の中に、緑があるだけで、職人のストレスは半減するんだ」
3. 49歳の職人談義:『現場』はどこでも現場だ
数日後、完成した月面事務所には、地上と同じ「温かい風呂(第6話)」と「美味しいコーヒー」が用意された。
窓の外には、暗黒の宇宙と、美しく輝く故郷の惑星が見える。
「……監督。まさか月にまで『現場事務所』を作っちまうとはな。……俺も長いことドワーフやってるが、こんな景色を見ながら酒が飲めるとは思わなかったぜ」
ガムリが、気密室で作業着を脱ぎ、安物のウイスキーを口にする。
「……現場ってのはな、ガムリ。……『そこで働く奴が、明日も頑張れる場所』のことだ。……場所が地下だろうが月だろうが、やることは変わらねえ。……安全を確保し、環境を整え、確実に工程を進める。……俺たちの『穴掘り』は、ようやく月まで届いた。……次は、この月を足場に、星の裏側の修繕に取り掛かるぞ」
49歳の現場監督、盆山茂。
彼は月の静寂の中に、新しい槌音を響かせ始めた。
サンクチュアリの物語は、惑星という名の「巨大建築物」をリフォームする、壮大な第3章へと突入する。
第61話、完。




