第59話:星の作業服(コスミック・ワークウェア) ―49歳、極限の「安全防具」を仕立てる―
第59話:星の作業服 ―49歳、極限の「安全防具」を仕立てる―
1. 大気圏の壁:高高度魔力嵐
「監督、冗談じゃねえぞ! バベル・シャフトの先端から上は、空気がねえだけじゃねえ。……『魔力の暴風域』だ。生身で出た瞬間、魔力酔いで脳が焼かれるか、気圧差で内臓が破裂するぜ!」
ガムリが、シャフト頂上の観測データを叩きつけながら叫んだ。
月を目指すための最大の障害は、惑星を包む高濃度の魔力層だった。かつての文明はこれを高度な結界で突破したが、今の盆山たちには「宇宙船」を丸ごと包むほどの巨大な魔力源がまだ足りない。
盆山茂(49歳)は、作業机の上に広げた複数の素材サンプルを、老眼鏡をずらして見つめていた。
「……船がダメなら、人間の方を固めるまでだ。……いいか、ガムリ。現場で一番大事なのは『身を守る道具(保護具)』だ。……宇宙という名の『最高に危険な現場』に行くための、究極の作業服を作るぞ」
2. 施工:魔導加圧式・環境遮断スーツ「サンクチュアリ・エグゾ」
盆山が設計したのは、現代の宇宙服と、アイリスが持っていた古代の強化外骨格を融合させた**「多機能・魔導作業服」**だった。
「ベア、まず外装は『魔導銀(第38話)』と『自己修復セラミック(第46話)』の積層構造だ。……放射線と魔力パルスを99%遮断しろ。……中には、アイリスの設計した『人工筋肉』を仕込む。……これなら月面の低重力でも、地球と同じ感覚でスコップが振れる」
盆山が最もこだわったのは、やはり「現場の使い勝手」だった。
「ガムリ、腰袋の配置はミリ単位で調整しろ。……宇宙じゃ指先の感覚が鈍る。……手袋には、触れた物の材質を瞬時に解析する『感圧式魔導センサー』を埋め込め。……それと、これだ。……『ヘルメットの防曇機能』と『360度広角モニター』。視界が死ぬ現場は、即、死に直結するからな」
アイリスは、盆山がスーツの胸元に「安全第一」という漢字を刻み込むのを見て、呆れたように、しかしどこか嬉しそうに呟いた。
「……機能美を無視した装飾ね。でも、その『過剰なまでの安全性への執着』こそ、私たちの文明に足りなかったものかもしれないわ」
3. 49歳の職人談義:『安全靴』が明日を創る
試作されたスーツに身を包み、盆山はシャフト外壁の超高高度テラスに立った。
外はマイナス100度、呼吸すら不可能な真空の世界。だが、スーツの内部は盆山の設計通り、春の日のような快適な温度と酸素濃度が保たれていた。
「……監督、着心地はどうだ?」
通信機越しにガムリが尋ねる。
「……ああ。……少し重いが、安心感がある。……いいか、道具ってのはな、使う奴を『無敵』だと思わせちゃいけねえ。……『これを着ていれば、必ず生きて帰れる』という『確信』を与えるためのもんだ。……よし、このスーツを4人分(盆山、ベア、ガムリ、アイリス)量産しろ。……月面調査(現地確認)の準備、開始だ」
49歳の現場監督は、銀色に輝くバイザー越しに月を見据えた。
最強の防具を手に入れた職人たちにとって、もはや空の果ては「到達不能な場所」ではなく、単なる「次の工区」に過ぎなかった。
59話~完~




