第58話:月面の測量(ルナ・サーベイ) ―49歳、宇宙の「地盤」を双眼鏡で覗く―
第58話:月面の測量 ―49歳、宇宙の「地盤」を双眼鏡で覗く―
1. 空の果て、そして「月」の異変
バベル・シャフトの頂上、「スカイ・ミラー(第56話)」のメンテナンスを終えた盆山は、ふと夜空を見上げた。
この世界の月は、地球のそれよりも大きく、そして不気味なほどに「左右対称」な幾何学模様が浮かんでいる。
「……アイリス、前々から気になってたんだが。……あの月、ただの岩石(石ころ)じゃねえだろ?」
盆山が愛用の高倍率・双眼鏡(魔導強化版)を覗きながら尋ねる。
アイリスは、懐かしさと寂しさが混じった目で月を見つめた。
「……気づいた? ……あれは、私たちの文明が最後に作り上げた『最終メンテナンス・ドック』。……地球……じゃなくて、この惑星を管理するための、全自動・修復ステーションよ」
2. 施工:超長距離・魔導天体望遠鏡「サンクチュアリ・アイ」
盆山は、さらなる「現場」の予感に血が騒いだ。
「……ドックだって? ……ってことは、そこに行けば、この壊れかけた世界をまるごと直せる『部品』や『図面』が眠ってるってことか。……よし、まずは現地調査だ。……バベル・シャフトの頂上に、世界最大の**『天体観測・精密測量ユニット』**を建設するぞ」
盆山が設計したのは、重力レンズの原理を魔法で応用した、超巨大な「液体鏡面望遠鏡」だった。
「ガムリ、直径20メートルの凹面鏡を作れ。……素材はガラスじゃねえ、魔力で制御された『液体水銀』だ。……こいつを高速回転させて、完璧なパラボラ形状を維持する。……わずかな歪みも魔法で補正しろ」
アイリスが調整した座標に、盆山がレンズのピントを合わせる。
モニターに映し出されたのは、クレーターだらけの荒野ではなく、整然と並ぶ「巨大なハンガー」と「銀色の滑走路」、そして——静かに発光を続ける「古代の管理信号」だった。
3. 49歳の職人談義:『現場』は遠くにあるほどいい
「……見ろよ、ベア、ガムリ。……あそこには、まだ誰も手をつけてねえ『真っ新な現場』が広がってやがる」
盆山の目が、少年のように輝いていた。
「……監督。まさかとは思うが、あの月まで『穴を掘りに行く』とか言わねえよな?」
ガムリが、戦々恐々としながら尋ねる。
「……バカ言え。……穴は掘るんじゃなく、『繋ぐ』もんだ。……バベル・シャフトをさらに伸ばすか、それとも第39話の飛行船舶を『宇宙船』に改造するか。……やるべきことは山積みだ。……49歳、まだまだ隠居には早すぎるらしいな」
盆山は、月の表面を映し出すモニターを見ながら、新しい「工程表」を頭の中で描き始めた。
サンクチュアリの物語は、ついに重力を振り切り、星々を繋ぐ「超巨大インフラ」へとその一歩を踏み出そうとしていた。
第58話、完。




