第56話:太陽の収穫(ソーラー・ハーベスト) ―49歳、雲の上から「光」を引く―
第56話:太陽の収穫 ―49歳、雲の上から「光」を引く―
1. 慢性的な「電力不足」と北方の凍土
「監督、不味いぜ。キャリアー(第52話)での救済活動が広がりすぎて、魔石の備蓄が底を突きかけてる。地熱発電(第29話)だけじゃ、この大陸全体の暖房と、バベル・シャフトの維持を両立させるのは無理だ」
ガムリが、空になったエネルギー・セルの山を蹴り飛ばしながら報告した。
地上の北側諸国では、帝国の魔導兵器が放った「永夜の煤」が成層圏を覆い、太陽光を遮断。作物が育たないどころか、人々が凍死する寸前の極寒が続いていた。
盆山茂(49歳)は、バベル・シャフトの頂上ロビーで、厚手の防寒ジャンパーの襟を立てた。
「……下の天気が悪いなら、雲の上で発電すりゃいいんだよ。……アイリス、あんたの設計図にある『集光衛星』……あれをこのシャフトの先端で再現するぞ」
2. 施工:成層圏・集光プラント「スカイ・ミラー」
盆山が着手したのは、バベル・シャフトの頂上(高度1万メートル)に、直径2キロに及ぶ**「魔導集光パラボラ・パネル」**を展開する工事だった。
「ベア、パネルの素材は以前開発した『魔導銀(第38話)』をさらに薄く蒸着させたフィルムを使え。……風圧で引き裂かれねえよう、膜構造の境界には『弾性重力結界』を張り巡らせるんだ」
アイリスが横から口を挟む。
「……非効率ね。静止軌道までパネルを上げれば、24時間365日、100%の出力が得られるのに。この高度じゃ、夜間は発電できないわよ?」
「……お嬢さん、納期とコストを考えろ。……今、下の連中が必要としてるのは、100年後の100点じゃなく、『明日の60点』なんだよ。……シャフトの先端なら、メンテナンスも直接行ける。……これが、現役の『現場主義』だ」
盆山はガムリと共に、シャフトの頂上から巨大なフィルムを「傘」のように広げていった。雲を突き抜けたそこには、遮るもののない、黄金の太陽光が降り注いでいた。
集められた光エネルギーは、バベル・シャフト内部の「超伝導魔導ケーブル」を通じて、一気に地下の蓄電センターへと送り込まれる。
3. 49歳の職人談義:『インフラ』は弱者を救うための武器
数時間後、集光プラントが稼働を開始。地下から地上、そして遠く離れた難民キャンプの「魔導ヒーター」が一斉に温かな熱を放ち始めた。
「……ふぅ。……ようやく、一息つけるな」
盆山は、強風に煽られながらも安定して光を反射するパネルを見つめていた。
「監督。……あんたは、この光を帝国への攻撃に使うこともできたはずだ。……でも、あんたはそれを『暖房』に使った。……損得勘定が合わねえな」
ガムリが、冷えた手をヒーターで温めながら言う。
「……ガムリ。……現場の人間にとって、一番の敵は『寒さ』と『暗闇』だ。……それを取り除くのが俺たちの仕事だろ。……人を殺すための光なんて、設計図には一行も書いてねえんだよ」
49歳の現場監督が手に入れた「空の太陽」。それは、絶望に凍える世界を、物理的な熱量で溶かし始めていた。
56話~完~




