第50話:竣工の祝祭(グランド・コンプリーション) ―49歳、世界の「引渡し書」に判を突く―
第50話:竣工の祝祭 ―49歳、世界の「引渡し書」に判を突く―
1. 戴冠式ならぬ「全工程修了式」
「監督、いい加減にしてください! 各国の王が『盆山王の戴冠式』に参列しようと正装で待機しているんですよ。それなのに、なぜ貴方は地下の配電盤の前でテスターを握っているんですか!」
セドリック司祭が、サンクチュアリ中央制御室の奥まで盆山を追いかけてきた。
盆山茂(49歳)は、鼻眼鏡をクイと上げ、絶縁ゴム手袋をはめたまま振り返った。
「……司祭様よ。王冠を被るより先に、この『第5系統予備トランス』の絶縁抵抗値を測るほうが先決だ。……いいか、今日この街は『完成』として世界に引き渡される。……引き渡し当日に停電なんて事態、現場監督(俺)のプライドが許さねえんだよ」
結局、盆山は泥のついた作業着を脱ぎ、ベアトリーチェが用意した特注の「タキシード風の作業服(魔導鋼の繊維入り)」に着替えさせられた。
2. 施工:歴史を刻む「定礎」と全天候型広場
サンクチュアリの地上ターミナルビル(第40話)の巨大広場。そこには、かつて敵対していた帝国皇帝、王国の国王、そして各族の長が並んでいた。
盆山がこの日のために設計したのは、**「平和の定礎」**だ。
「ベア、広場の中心に、この地下都市が掘り始められた初日の『土』を封じ込めたタイムカプセルを埋める。……その上に、透明な超強化ガラスを嵌めろ。……どれほど高度な文明になろうと、俺たちはこの『泥臭い土を掘る一歩』から始まったんだってことを、1000年後の連中にも見せてやるんだ」
広場を覆うのは、気温や天候に合わせて透過率を自動調整する「魔導ドーム・ルーフ」。雨が降っても、王たちの高価なマントが濡れることはない。
盆山は壇上に上がり、用意された王冠を……ではなく、新品の「白銀のヘルメット」を手に取った。
3. 49歳の職人談義:『国』は生きている建物だ
「……えー、本日はお忙しいところ、サンクチュアリの竣工式にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
盆山の第一声は、まるで地方自治体の道路開通式の挨拶のようだった。
「俺は王になるつもりはねえ。……だが、このサンクチュアリという『巨大な共有施設』の管理責任者(管理人)は引き受ける。……この街に住む奴らは、今日から俺の『施主』だ。……施主が幸せで、安全で、腹一杯食える。……そんな当たり前の現場管理を、俺は死ぬまで続けていく」
拍手喝采の中、盆山は「竣工検査合格証」という名の国家承認書に、自分のハンコを力強く押した。
49歳の現場監督が作ったのは、独裁者の城ではない。誰もが「帰りたくなる」という名の、世界最大の公共事業だった。
50話~完~




