第49話:終の棲家(マイ・ホーム・プロジェクト) ―49歳、自分のために「1ミリ」を削る―
第49話:終の棲家 ―49歳、自分のために「1ミリ」を削る―
1. 職人の「贅沢」とは何か
「……ベア、ガムリ。……世界中を舗装して、他人の家を建てて、ようやく気づいたよ。……俺自身の『現場』が、まだプレハブの事務所のままだってことに」
盆山茂(49歳)は、サンクチュアリの絶景が見える地下1000メートルの断崖絶壁を背に、ぽつりと呟いた。
これまで数万人のためのインフラを作ってきた彼だったが、自分自身のための空間は、常に「寝られればいい」という最小限のスペックだった。だが、49歳。人生の折り返し地点を過ぎ、彼はついに「自分だけのこだわり」を形にすることを決意した。
「よし、ここに俺の隠居所を建てる。……予算も納期も関係ねえ。……俺が俺として、死ぬまで『最高だ』と言える家だ」
2. 施工:和魂魔才の「数寄屋造り」
盆山が選んだのは、地下の鍾乳洞を活かした「和洋折衷のモダン建築」だった。
「ベア、ここの壁面には、古代素材(第36話)を極限まで薄く削った『魔導障子』を入れろ。……外光を遮るんじゃなく、地下の燐光を最も美しく拡散させる透光率に調整するんだ」
彼はガムリと共に、地下深くから掘り出した「神代杉」に匹敵する銘木を削り出し、釘を一本も使わない「組み木」で骨組みを造った。
「……ガムリ、ここは0.1ミリの狂いも許さねえぞ。……木と木が噛み合う瞬間の『音』を聞け。……それが家の魂になる」
さらに、彼が最もこだわったのは、やはり「風呂」だった。
「ただの大浴場(第6話)じゃねえ。……自分一人のための『掛け流し・檜風呂』だ。……湯温は42度固定。……壁には地下の苔を配した『マイクロ観葉植物壁』を。……そして、この露天風呂からは、サンクチュアリの街明かりが、まるで星空のように見えるように角度を計算しろ」
床には、足裏を優しく刺激する「魔導式・床暖房付き畳」を敷き詰め、キッチンには、自分がかつて日本で使っていた「古びた土鍋」に似た魔導炊飯器を設置した。
3. 49歳の職人談義:『帰る場所』を造る責任
完成した家で、盆山は初めて一人、静かに湯船に浸かった。
檜の香りと、地下を流れる風の音。
「……ああ。……これだ。……これが、俺がずっと造りたかった景色だ」
ベアトリーチェが、静かに冷えたお茶を運んでくる。
「……マスター。素晴らしい家ですね。……これで、貴方の『仕事』は終わるのですか?」
「……バカ言え。……自分の家が最高であればあるほど、外の『不具合』が目につくようになるもんだ。……明日からは、この家を基準にして、世界中の家をさらに良くしてやるよ」
盆山は、窓の外に広がる、自分が造った「世界」を眺めた。
49歳の現場監督。彼にとっての「我が家」は、安息の地であると同時に、さらなる高みを目指すための「最新の試作場」でもあった。
第49話、完。




