第41話:鉄塊の博愛 ―49歳、プレハブ住宅で「日常」を最速配布する―
第41話:鉄塊の博愛 ―49歳、プレハブ住宅で「日常」を最速配布する―
1. 境界線の悲鳴
「……監督、見てられねえよ。ありゃ地獄だ」
ガムリが、魔導鏡に映し出された地上の国境付近の映像を見て、絞り出すように言った。
帝国と王国の小競り合いによって焼かれた村々から、数千人の難民がサンクチュアリの地上ターミナル周辺へと押し寄せていた。泥にまみれたボロ布を纏い、冷たい雨に打たれながら震える子供たち。彼らには帰る家もなく、今日を凌ぐ屋根すらない。
盆山茂(49歳)は、愛用の老眼鏡を外し、眉間を深く揉んだ。
「……現場で一番怖いのは『職人の怪我』だが、その次に怖いのは『予定外の豪雨』だ。……あいつらにとって、今は人生最大の土砂降りの中にいるってわけだな」
盆山は立ち上がり、ヘルメットを深く被り直した。
「ベア、ガムリ。資材庫の『第21話で作った地下鉄道の余り』と、第36話の『魔導鋼』の端材を全部出せ。……あいつらに、今夜中に『温かい布団で眠れる場所』を届けるぞ」
2. 施工:魔導プレハブ・モジュール「サンクチュアリ・ポッド」
盆山が設計したのは、現代日本の災害復興で培われた技術の粋を集めた**「超高速・魔導プレハブ住宅」**だった。
「いいか、家ってのは本来、何ヶ月もかけて建てるもんだ。だが今は『1分1秒』が納期だ。……現場監督の意地を見せてやる」
彼は工場で、床、壁、天井が一体となった「折り畳み式モジュール」を設計した。
「ベア、このパネルに『断熱』と『軽量化』の魔法を付与しろ。……ガムリ、お前さんはジョイント部分の金具を作れ。……カチッと嵌めるだけで、震度7……いや、火竜の体当たりでも壊れねえ強度を持たせるんだ」
サンクチュアリの地上ヘリポートから、巨大飛行船舶(第39話)が何度も往復し、平原に資材を投下していく。
盆山は現地に降り立ち、自ら魔導スコップで「インスタント基礎」を打ち込んだ。
「地面を平らにして、この魔法のコンクリートを流せば、5分で硬化する。……そこにパネルを組み上げるんだ。……壁を立てろ、屋根を被せろ、ボルトを締めろ! ほら、10分で一軒完成だ!」
3. 49歳の職人談義:『仮』でも『家』だ
平原に、白く清潔な「街」が瞬く間に形成されていく。
各ユニットには、盆山がこだわった「高断熱・二重窓」と「小型魔導ヒーター」が完備され、外の嵐が嘘のように静かで温かい空間が確保された。
さらに盆山は、ユニットの隅に「簡易式・循環水洗トイレ」を設置した。
「……ガムリ、笑うなよ。人間、トイレが綺麗じゃないと尊厳を失うんだ。……暖かいメシと、プライバシーが守れる壁。それがあれば、人間はまた明日を考えられるようになる」
震える手でプレハブのドアを開けた難民の老婆が、室内の温もりに触れた瞬間、その場に泣き崩れた。
盆山はそれを見向きもせず、次の区画の水平出しに没頭していた。
「……マスター。貴方の『工事』は、剣で戦うよりも多くの命を救っていますね」
「……買い被るなよ、ベア。俺はただ、雨漏りしてる現場を見て見ぬふりできない、ただの『お節介な親父』なだけだ」
49歳の現場監督が配ったのは、家ではない。「絶望という名の嵐」を凌ぐための、鋼鉄の傘だった。
41話~完~




