第40話:地上の表札(ブランチ・エントランス) ―49歳、聖域の「顔」を飾る―
第40話:地上の表札 ―49歳、聖域の「顔」を飾る―
1. 第1章の締めくくり:サンクチュアリ地上支店
「監督、地下は完璧です。ですが、地上側の入り口が、いまだに『怪しい洞窟』のままなのは、サンクチュアリの格に関わります」
セドリック司祭が、ブランディングの観点から進言した。
確かに、世界最強のインフラを持つ地下都市への入り口が、崩れかけた岩穴では、訪れる賓客の期待を削ぐ。
「……わかったよ。いつまでも『隠れ家』ってわけにもいかねえか。……よし、ここにサンクチュアリの看板代わりになる**『地上総合ターミナルビル』**を建てる」
盆山が選んだのは、公爵領と街道が交差する、標高の高い岩山の上だった。
2. 施工:カーテンウォールと「パッシブデザイン」
盆山が地上建築で目指したのは、地下の「重厚さ」とは対照的な「軽やかさと光」だった。
「地下じゃ絶対にできなかったことをやる。……全面ガラス張りの『カーテンウォール構造』だ。……外壁に荷重を持たせない。……古代素材の細いフレームで、風景を切り取るんだ」
彼は、地上側の過酷な気候(冬の寒さと夏の直射日光)に対応するため、「ダブルスキン」構造を採用した。
「二枚のガラスの間に空気層を作り、魔法で温度を循環させる。……エアコンに頼りすぎない、自然エネルギーを活用した『環境配慮型ビル』だ」
さらに、屋上には飛行船舶(第39話)のためのヘリポートならぬ「スカイ・ポート」を設置。エントランスには、地下1000メートルへと直通する「超高速シャトル・エレベーター」が鎮座している。
「ガムリ、外構にはこだわりたい。……この地の岩をそのまま活かした『ロックガーデン』に、地下から汲み上げた浄化水を滝のように流せ。……ここに来た奴が、『ここが天国か』と錯覚するくらいのな」
3. 49歳の職人談義:『家作り』は『幸せの形』
完成したターミナルビルの前で、盆山は、初めてこの世界に来た時に出会ったベアトリーチェ、ガムリ、そして公爵や王女エルゼと並んで立っていた。
目の前にそびえ立つのは、魔法の世界には存在し得なかった、洗練されたモダンな建築物。
その透明なガラスの向こうには、地下から続く「平和な日常」へと繋がる道が見える。
「盆山よ……貴殿がたった一人で掘り始めたこの穴が、まさか世界を変える巨大な楔になるとはな」
公爵が感無量といった様子で呟いた。
「一人じゃないですよ。……最高のスタッフと、最高の資材、そして何より『納得のいくまでやり抜く時間』があった。……それだけですよ」
盆山はそう言って、ポケットから一服の薬草を取り出した。
「さて、ベア。……これで『第1期工事』は完了だ。……明日からは『第2期』に入るぞ。……サンクチュアリの技術を、今度はこの『世界全体』へ広げていく。……まずは、国境沿いに『移動式・魔導避難所』の建設からだ」
「はい、マスター。……貴方の現場に、終わりはありませんね」
49歳の現場監督、盆山茂。
彼が掘り進めた穴は、もはやサンクチュアリという点を超え、世界を繋ぐ「未来の基盤」へと繋がっていた。
第1章:聖域成立編 完。
(第2章:世界開拓編へ続く)
40話~完~




