第37話:電脳の脈動(メディア・センター) ―49歳、情報の「遅延」を許さない―
第37話:電脳の脈動 ―49歳、情報の「遅延」を許さない―
1. 情報の「格差」という不利益
「監督、地上の情勢が不穏だ。……帝国と王国が国境で睨み合っているらしいが、情報の入るタイミングが人によってバラバラで、街の中に変なデマが流れてやがる」
セドリック司祭が、苦い顔で報告にきた。
サンクチュアリには、毎日数千の噂が流れ込む。だが、正確な「事実」が伝わる速度が遅いため、人々は不安になり、それが経済や治安に悪影響を与え始めていた。
「……情報ってのは、現場における『指示書』と同じだ。……正確な図面が全員に届いてねえ現場は、必ず事故を起こす。……よし、ここに**『魔導中継局』**を開設する」
2. 施工:魔導光ファイバーと「ビジョン」の普及
盆山が構築したのは、地下都市全域を結ぶ「超高速魔導通信網」だった。
「ベア、以前見つけた古代文明の『魔導伝導体』を細く引き伸ばして、全戸に配線しろ。……これを『魔導光ファイバー』として使う。……電気信号じゃねえ、光の点滅で情報を送るんだ」
さらに、盆山は街の各所に巨大な「魔導壁面スクリーン」を設置。
家庭向けには、以前開発した「魔導鏡」の技術を応用した小型の受信端末を配布した。
「ただ情報を流すだけじゃねえぞ。……『解像度』にこだわれ。……4K……いや、魔法なら8K相当までいけるだろ。……王女様の演説も、市場の価格表も、毛穴が見えるほどの鮮明さで全員に届けるんだ」
盆山は自ら「プロデューサー」となり、番組の構成までも指示した。
「午前中は天気と市場価格。午後は職人向けの技術講座。夜は娯楽番組と……そして、一日の終わりには『明日の工事予定』だ。……情報の共有こそが、連帯感を生むんだよ」
3. 49歳の職人談義:『見える』ことの安心
開局初日。巨大スクリーンに、サンクチュアリの美しい空中庭園のライブ映像が映し出された。
地上の争いのニュースも、隠すことなく淡々と報じられた。人々は「何が起きているか」を正確に知ることで、逆に落ち着きを取り戻していった。
「監督。……これじゃ、もう誰も隠し事はできませんね」
ベアトリーチェが、管理室のモニターを見守りながら呟く。
「……それでいいんだ。……隠し事がある現場は、手抜き工事が起きる。……『すべてが見える』ってのは、最初は怖いかもしれねえが、それが結局は一番の近道なんだよ」
盆山茂、49歳。
建物、道、水、金、教育、そして今、人々の「目と耳」までも繋ぎ合わせた。
地下1000メートルのサンクチュアリは、もはや一つの「生命体」として、完璧な情報の循環を始めたのである。
第37話、完。




