第31話:見えざる信頼(クレジット) ―49歳、キャッシュレスで壁を壊す―
第31話:見えざる信頼 ―49歳、キャッシュレスで壁を壊す―
1. 通貨の混乱と「信用」の設計
「監督、また揉め事だ! 隣国の商人と、教会の巡礼者が、お互いの持っている金貨の価値で言い争ってやがる。……ここじゃ、どこの国の金が一番偉いのか決めてくれってよ!」
ガムリが、駅ビルの両替所で起きた騒動を報告してきた。
多国籍な人々が集まるようになったサンクチュアリでは、貨幣の不一致が経済の目詰まりを引き起こしていた。偽造硬貨や、削られた金貨。それらが「信頼」を損なわせている。
「……時代遅れの金貨に振り回されるのは、もう終わりだ。……ベア、セドリック司祭を呼べ。……このサンクチュアリ独自の『経済インフラ』を導入する」
2. 施工:魔導ICカード「サンクチュアリ・パス」
盆山が提案したのは、物理的な貨幣を必要としない**「キャッシュレス決済システム」**だった。
「まず、全員に発行している入館証(IDカード)に、魔力による『電子財布』の機能を付与する。……チャージは駅の窓口で金貨を預けるだけ。……あとはカードをかざすだけで、一瞬で決済完了だ」
盆山は、中央管理室の奥に「巨大な計算魔石」を設置した。
「ベア、この魔石に全取引のログを記録させろ。……二重払い、不正利用、改ざん。……それらすべてを、魔力的な署名(暗号化)で完全に防ぐ。……不正をした奴は、即座にカードを止めて、サンクチュアリから追放だ」
セドリック司祭は、そのシステムの画期的な利便性と、それ以上に「すべての金の流れを把握できる」という管理能力に戦慄した。
「盆山様……これは、世界の経済を支配しかねない劇薬です」
「支配じゃねえよ。……『公平さ』の担保だ。……手数料は最小限。……その代わり、誰もが安心して買い物ができる。……それが『商業のインフラ』だろ?」
3. 49歳の職人談義:信頼を「数値」にする
導入から数日。サンクチュアリ内の店舗からは、煩わしい小銭のやり取りが消えた。
冒険者も商人も、首から下げた虹色のカードを「ピッ」とかざすだけで、食事をし、宿泊し、装備を買う。
盆山は、駅ビルのカフェで自作のカードを使い、コーヒーを購入した。
「……便利になったもんだな」
「監督、これなら金を数える手間が省けて、仕事が捗るぜ!」
ガムリも、自分のカードに貯まった「給与」の数字を見て満足げだ。
「いいか、ガムリ。金ってのは紙切れや金属の塊じゃねえ。……『どれだけ社会に貢献したか』、あるいは『どれだけ信頼されているか』という数字なんだ。……俺がこのシステムで作ったのは、金じゃねえ。……『この街なら騙されない』っていう、究極の信頼感だ」
盆山茂、49歳。
エネルギー、水、そして金。
都市を支えるすべてのインフラを掌握した彼は、もはや一人の現場監督ではなく、地下に新たな「文明」を築き上げた創造主としての歩みを、確かなものにしていた。
第31話、完。




