第25話:銀河の夜明け ―49歳、初めての「出発進行」―
第25話:銀河の夜明け ―49歳、初めての「出発進行」―
1. 始発駅の熱狂:地上と地下の握手
「サンクチュアリ本線」の開通式当日。
地上の始発駅――公爵領の外れに突如出現した、白亜の駅舎「地上セントラル・ゲート」には、数千人の観衆が詰めかけていた。
枢機卿、王女エルゼ、そして各国の商考会議所の面々が、ピカピカに磨き上げられた「鋼鉄の流星」の前で息を呑んでいる。
「盆山殿。……本当に、この鉄の塊が地下1000メートルまで我々を運ぶのか?」
枢機卿が、不安と期待の混ざった声で尋ねる。
「ええ。階段を歩くより、よっぽど快適ですよ。……さあ、乗り込んでください。定刻は厳守がモットーですから」
2. 発車:加速する静寂
盆山が運転席に座り、マスコン(出力レバー)をゆっくりと手前に引く。
「キィィィィィィン……」という、かすかな魔力の励磁音。
車両が数センチ浮き上がり、滑るように加速を始めた。
車内では、王女エルゼが窓の外を見て驚愕していた。
地上の風景が瞬く間に後方に飛び去り、列車は滑らかに巨大な地下トンネルへと吸い込まれていく。
「……揺れない。音がしない。……私、本当に動いているのですか?」
時速220キロ。
暗いトンネルの中、一定間隔で設置された魔導灯が、銀色の車体に光の帯となって流れる。
盆山は計器を見つめ、指を差した。
「トンネル内、異常なし。定時通過。……よし」
3. 到着:サンクチュアリの「日常」へ
わずか数分後。
列車は減速を開始し、光に満ちた「サンクチュアリ中央駅」のホームへと滑り込んだ。
ホームドアが開き、乗客たちが一歩を踏み出す。そこには、瑞々しい緑の庭園と、芳醇なコーヒーの香りが漂う「聖域」が広がっていた。
「……信じられん。わずか5分の旅で、別世界に来てしまった……」
商人の一人が、腰を抜かしたようにホームに座り込む。
盆山は運転席を降り、ベアトリーチェと視線を交わした。
「……これで、サンクチュアリは孤島じゃなくなった。……世界中から、人が、物が、想いが、ここに流れ込んでくる」
「マスター。……それは、新たな『トラブル』の始まりでもありますね?」
「ああ。……だからこそ、やりがいがある。……駅ビルに、ショッピングモールに、宿泊施設の増築。……ベア、残業の準備はできてるか?」
盆山茂、49歳。
地上の駅と地下の聖域を繋いだ男は、ヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭った。
彼の目には、もはや「一軒の隠れ家」ではなく、地下に広がる「巨大な文明圏」の設計図が、鮮明に浮かび上がっていた。
第25話~完~




