第23話:深層のターミナル ―49歳、境界のない「駅」を拓く―
第23話:深層のターミナル ―49歳、境界のない「駅」を拓く―
1. 現場監督の「結節点」理論
「駅ってのはな、ただの乗り降りする場所じゃねえ。そこは『日常』と『非日常』、あるいは『こちら側』と『あちら側』が混ざり合う、都市の心臓なんだよ」
盆山茂(49歳)は、サンクチュアリの北側、巨大な岩盤をくり抜いて作られた広大な空間で、ヘルメットの顎紐を締め直した。
彼の前には、全長200メートルに及ぶ巨大な空洞が広がっている。ここが「サンクチュアリ中央駅」のホームになる予定地だ。
「ベア、ガムリ。これまでのリフォームは『家作り』だった。だが、鉄道は『街作り』だ。不特定多数の人間が、一秒の狂いもなく、安全に流動するための完璧な動線。それをこの岩の中に刻み込むぞ」
2. 施工:バリアフリーと「ユニバーサルデザイン」の真髄
盆山がまず着手したのは、ホームの設計だった。
「いいか、ここに来るのは屈強な冒険者だけじゃねえ。足の不自由な老人、小さな子供、そして重い荷物を抱えた商人も来る。……段差は1ミリも許さねえぞ」
彼は魔導スコップでホームの縁を削り出し、特殊な「高摩擦・防滑性セラミックタイル」を敷き詰めた。雨の日(地下に雨は降らないが、魔法の湿気はある)でも滑らない、日本の駅でお馴染みのあの質感だ。
さらに、ホームの端には「魔導式ホームドア」を設置。
「ガムリ、このドアは列車の到着と100分の1秒の誤差もなく連動させろ。……転落事故は、現場監督の末代までの恥だからな」
ドワーフのガムリは、ホームドアの駆動部に「引力属性の魔石」を組み込み、音もなく、それでいて重厚に開閉する機構を作り上げた。
「監督、これなら泥酔したドワーフが千鳥足で歩いても、線路に落ちる心配はねえな!」
3. 光の演出:2000ルクスの「安心感」
地下駅の最大の課題は、圧迫感だ。
盆山は天井をあえて高く取り、ヴォールト(円弧)状の構造にした。そこに設置されたのは、特注の「大光量・面発光魔導パネル」だ。
「地下の駅が暗いと、人間は本能的に警戒する。……昼間の地上と同じ2000ルクスの明るさを確保しろ。ただし、直接目は刺すな。光を天井に反射させる『コーニス照明』で、空間全体を包み込むんだ」
スイッチが入ると、暗い空洞が一瞬にして、地上の大聖堂のような神々しい光の空間へと変貌した。
「……マスター。ここは、暗闇の住人である魔族の私ですら、心が晴れやかになるほど美しいです」
ベアトリーチェが感嘆の声を漏らす。盆山は満足げに頷き、図面の次のページを捲った。
23話~完~




