第19話:聖域の議事堂 ―49歳、防諜とエルゴノミクスの間で―
第19話:聖域の議事堂 ―49歳、防諜とエルゴノミクスの間で―
1. 事務屋の襲来と職人の拒否反応
「盆山殿。こちらが聖教会より派遣された、外交事務官のセドリックです。……それと、こちらが提出していただきたい『聖域認定申請書類』一式でして」
枢機卿が連れてきたのは、若く、眼鏡を光らせた怜悧な司祭だった。彼の背後には、羊皮紙の束が山のように積まれている。
盆山茂(49歳)は、その光景を見た瞬間、現場監督時代に最も忌み嫌っていた「役所の完成検査」を思い出した。
「……おいおい、枢機卿様。俺は穴を掘って、快適な空間を作るのが仕事だ。判子を突いたり、小難しい理屈を並べ立てるのは専門外だぞ」
「ですが盆山様、これからのサンクチュアリは国際的な『公認』を必要とします。そのためには、正式な会議室、および事務執務室が必要です」
セドリック司祭が、淡々と告げる。盆山は溜息をつき、頭を掻いた。
「……わかったよ。要は、こいつ(書類)を片付けるための『戦場』を作ればいいんだな。……ベア、ガムリ。休憩は終わりだ。世界一仕事が捗る、**『魔導事務センター』**を建てるぞ」
2. 施工:吸音パネルと「隠蔽配線」
盆山が設計したのは、現代の最高級オフィスビルをも凌駕する「多機能会議室」だった。
まず彼が徹底したのは、**「情報の気密性」**だ。
「会議室の壁の中に、鉛と『沈黙の魔石』を練り込んだ遮音シートを挟め。物理的な音漏れはもちろん、魔力による盗聴も完全にシャットアウトする。……あと、これだ。一番大事なのは『静かさ』だ」
壁面には、49歳の盆山がかつて手がけたコンサートホールの技術を応用した、微細な穴が開いたウッドパネルを設置。反響音を極限まで抑え、ささやき声でもはっきりと聞き取れる「音響のデッド空間」を作り上げた。
さらに盆山は、床下に「魔導式OAフロア」を導入した。
「魔法のライン(魔導回路)が露出してると、足に引っかかるし見た目も悪い。……全部床下に隠して、どこからでも魔力を取り出せるようにしろ。……整頓されてない現場は、事故の元だからな」
3. 49歳のこだわり:最強の事務椅子
盆山が最も熱を注いだのは、会議室に並べる**「椅子」**だった。
「セドリック、お前さんみたいな事務屋が一番体を壊すのは、腰だ。……だから、椅子には金をかける。……ベア、この『エルゴノミクス(人間工学)構造』の図面通りに、魔導木を削り出してくれ」
完成したのは、座る人の体重に合わせて形状が変化し、腰椎を完璧にサポートする「アーロン・チェア」ならぬ「盆山・チェア」だった。
枢機卿が試しに座ってみると、あまりのフィット感に「……これは、座ったまま昇天しそうだ」と呟いたほどだ。
さらにデスクの隅には、常に適温の茶が提供される「自動給茶機」を完備。
「環境が整えば、人間は余計なストレスを感じない。……そうなれば、政治的な駆け引きも少しはマシになるだろ?」
盆山はそう言って、セドリックにペンを渡した。
19話~完~




