表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンダーグラウンド・サンクチュアリ:49歳の穴掘りから始まる異世界再生  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/108

第18話:深淵の楽園 ―49歳、地下に「永遠の春」を植える―

第18話:深淵の楽園 ―49歳、地下に「永遠の春」を植える―

1. 地下の「緑」への渇望

 エレベーターを降りた枢機卿と王女エルゼを待っていたのは、盆山が突貫工事で完成させた**「地下空中庭園アトリウム」**だった。

「……信じられない。ここは、本当に地下なのですか?」

 王女エルゼが、その場に立ち尽くし、溢れんばかりの緑を仰ぎ見た。

 かつては巨大な岩の空洞だった場所が、今は「地下の楽園」へと変貌している。

 盆山がこれに着手したのは、数日前のことだった。

「……公爵から聞いたが、王女様は故郷を追われた身らしいじゃないか。なら、彼女が一番見たいのは、豪華な金銀財宝じゃねえ。……故郷の、あの暖かな陽だまりと緑のはずだ」

2. 施工:人工太陽ライティングと土壌の錬金術

 地下で植物を育てるには、通常の魔法では限界がある。

 盆山は、自身の「植物工場(第5話)」の技術を、景観用として限界までスケールアップさせた。

「まず、天井に『全波長・魔導太陽灯』を100個配置する。ベア、波長は朝の5時から夕方の6時まで、太陽の動きに合わせてリアルタイムで変化させろ。……青白い朝の光から、黄金色の夕陽までだ」

 土壌についても、盆山は妥協しなかった。

 地上の肥沃な土を運ぶのは非効率だ。彼は、地下の岩石を粉砕し、それに「腐葉土属性」の魔石をブレンド。さらにガムリに依頼し、土壌の温度を常に20度に保つ「魔導床暖房システム」を通路の下に張り巡らせた。

「根っこが冷えれば、木は枯れる。……地下1000メートルでも、足元を温めてやれば、南国の花だって一年中咲き誇るんだよ」

3. 水と空気の循環:地下の「せせらぎ」

 庭園の中央には、盆山が最もこだわった「滝と小川」が流れている。

 水は、大浴場やキッチンで使われる浄水システムから分岐させた、クリスタルのように澄んだ水だ。

「ガムリ、この岩の配置(石組み)を見てくれ。……ただ置くんじゃない。『水の音』をデザインするんだ。……この段差で弾ける音、あそこの淀みで囁く音。……それらが合わさって、最高のリラックス効果(1/fゆらぎ)を生む」

 盆山は自らウェーダー(胴付長靴)を履き、冷たい水に浸かりながら、石の角度をミリ単位で調整した。

 「カチャッ、カチャッ」と、職人のこだわりが、地下に「自然の呼吸」を吹き込んでいく。

4. 植栽:異世界と地球の融合

 植えられた植物は、ベアトリーチェが世界中から集めてきた希少種と、盆山が「懐かしさ」で選んだ種が混ざり合っている。

「お姫様、これは……私たちの国に咲いていた『ルナ・リリー』ではありませんか!」

 エルゼが、ひときわ大きく白い花の前で膝をついた。

 その隣には、盆山が魔導で品種改良した「常春のサクラ」が、淡いピンクの花弁を舞わせている。

 地下特有の淀んだ空気は、盆山が設計した「森林浴フォレスト・エアー循環システム」によって、常にマイナスイオンを含んだフレッシュな香りに保たれている。

 深呼吸をするたびに、心が洗われるような感覚。

5. 49歳の職人談義:庭園は「生きる意欲」の種

 「盆山殿。……これほどのもの、一体いくらの金をつぎ込めば作れるのか」

 枢機卿が、庭園のベンチに腰を下ろし、呆然と呟いた。

 盆山は、作業用の手袋を脱ぎ、ポケットから小さな肥料の袋を取り出した。

「金じゃないですよ、枢機卿様。……必要なのは、『ここで生きていたい』と思わせる執念です。……現場でもそうでした。無機質なコンクリートの塊でも、入り口に一本の木があるだけで、住む人の表情が変わるんです」

 王女エルゼは、庭園を流れる小川に手を浸し、涙を浮かべて微笑んでいた。

「……盆山様。私は……もう二度と、故郷のような太陽の下で笑うことはできないと思っていました。……でも、ここには……私の求めていた『明日』が、確かに根を張っています」

6. 新たな使命:サンクチュアリの「公認」

 その夜、食堂のダイニングテーブルを囲み、枢機卿は重大な宣言をした。

「盆山茂。貴殿のこの『サンクチュアリ』を、我が教会、そして隣国との『永世中立・聖域保護区』として、正式に承認したいと思う。……ここは、もはや個人のリフォームの範疇を超えた。……世界を癒やすための、最後の砦だ」

 盆山は、少しだけ困ったように後頭部を掻いた。

「……中立地帯ねえ。そうなると、また『役所への届け出(事務手続き)』みたいな面倒が増えそうですね。……ガムリ、次は『会議室』と『賓客用のオフィス』の設計も入れなきゃならんぞ」

「ハハッ! 監督、あんたはどこまで行っても『現場』から離れられねえ男だな!」

 ガムリの豪快な笑い声が、庭園の緑を抜けて、地下の静寂に溶け込んでいった。

 地下1000メートル。

 49歳の現場監督が描く「理想の地図」は、世界を動かす大きな波紋へと、その形を変え始めていた。

 第18話、完。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ