表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吠えろ!ガラクタ~塵芥戦術~  作者: 堀尾 朗
第10章「駿河の過去」
38/42

—2—

 駿河光太郎は、比較的大人しい性格だった。友達もおらず、休み時間は教室の片隅で本を読んでばかりいた。

そんな彼を、半ば強引にドッジボールへ引き入れたのが河村圭佑だった。

理由は単純だ。

「奇数で割れているから」それだけだった。


河村は駿河とは対照的で、活発でクラスの中心にいるような人物だった。

強引な誘いを断り切れず、仕方なく参加した駿河だったが、その日を境に、たびたびドッジボールへ誘われるようになった。

最初の頃はうまく立ち回れず、外野ばかりに回されていた。だが、少しずつ上達してくると、内野に残る時間が増え、やがて相手にボールを当てることもできるようになった。

そうなると、嫌々参加していたはずのドッジボールが、次第に面白いと思えるようになった。やがて駿河は、自分から進んで参加するようになる。

ドッジボールに加わるようになってから、駿河の学校生活は大きく変わった。

それまで休み時間は、誰とも話すことなく本を読むだけだった。だが、いつの間にか声をかけられることが増えた。テレビの話。流行りのユーチューバーの話。先生の愚痴。

周囲と少しずつ馴染み、冗談を交わし合うことも増えていった。

学校が、前よりもずっと楽しく感じられるようになった。

なにより――笑うことが増えた。


ドッジボールにほぼ常連のように参加していると、河村から放課後の遊びにも誘われるようになった。

河村はクラスでも一位、二位を争うほどの人気者で、彼の周りはいつも賑やかだった。そんな彼から遊びに誘われることは、駿河にとって少し誇らしいことだった。


 放課後、河村を中心に流行っていたのは野球だった。近所のグラウンドに集まり、草野球をしていたのだ。

駿河はグローブを持っていなかったが、兄のお古を二つ持っている者から借りて使っていた。

二週間ほど経った頃、駿河は父親に頼み込み、ついに自分のグローブを買ってもらった。得意げにそれを持っていくと、河村が冗談めかして言った。

「新品いいな。俺のと交換しようか」

駿河はどこか誇らしげに、「やだよ」と答えるのだった。


しかし、良いことばかりではなかった。

遊んでいる時間が楽しければ楽しいほど、そうでない時間との落差が生まれる。駿河は以前よりも、かえって物寂しさを感じるようになっていた。

放課後の遊びに参加するようになったとはいえ、それは人数を要する野球のときだけだった。野球は多くても週に三日ほど。それ以外の遊びに誘われることはなかった。

別に嫌われていたわけではない。ただ、野球をする面子は大きく四つのグループに分かれており、野球以外の遊びは、それぞれのグループごとに行われていた。どのグループにも属していない駿河は、結果として宙ぶらりんの立場になってしまっていたのだ。

野球のない日、家でグローブがふと視界に入ると、なんとも言えない物寂しさが込み上げてくるのだった。


駿河が野球に参加するようになって二ヶ月ほど経った頃、転機が訪れた。

この時期、全国の小学生男児を夢中にさせたゲーム――初代モンクエが発売されたのだ。

もちろん駿河のクラスも例外ではなく、特に男児の間で爆発的に流行した。話題はどこでもモンクエ一色だった。レベルはいくつになったのか、新しいダンジョンの攻略法、ボスの倒し方――。ほとんどの男児がモンクエに夢中になっていた。

しかもこのゲームは複数人プレーが可能だった。

そのため放課後の遊びは、誰かの家に集まってモンクエをする、という形が主流になっていった。

それに伴い、野球に集まる人数は日に日に減っていった。

モンクエ発売から一ヶ月ほど経つ頃には、グラウンドに集まる人数は一桁にまで減っていた。

それでも河村は、変わらず声を掛け続けていた。

はっきり断ればいいものを、「行けたら行く」という定番の社交辞令を返されるものだから、まだ幼かった河村は、つい淡い期待を抱いてしまうのだった。

一人、また一人と来なくなり――

ついにその日、グラウンドに集まったのは四人だけだった。

(のちに駿河が知ることになるが、その四人には共通点があった。全員がモンクエを持っていなかったのだ。)



四人では野球にならないということで、その日は缶蹴りをすることになった。

駿河にとっては、野球やドッジボール以外で遊ぶこと自体が久しぶりだったため、とても新鮮な気持ちだった。

そして河村は、この日を境に、モンクエに夢中の連中を野球へ誘うことをぱったりとやめた。

その代わり、それまで野球以外では誘われることのなかった駿河が、ほぼ毎日のように遊びに誘われるようになった。これは駿河個人にとっては喜ばしいことだった。

遊びの内容は日によって変わった。

缶蹴りだったり、川遊びだったり、サッカーだったり、近所を探検してみたり。

一度嵌ると二、三日続けて同じ遊びをすることもあったが、飽きればまた別の遊びを考える。

そんな繰り返しで、とにかく退屈しない日々だった。


そんなある日のこと。

外は雨が降っていた。

ひょんな成り行きから駿河の家で遊ぶことになり、河村たちを家に招いていた。

バカ話をしたり、トランプをしたり、漫画を読んだりして時間を過ごしていると、不意に河村が言った。

「なぁ〜、何かゲームない?」

駿河は深く考えず、テレビ下の棚を指差した。

河村が棚に手を掛けた瞬間、駿河はあることに思い至る。

「あっ」

しかし、時すでに遅かった。

ゲーム機に差しっぱなしにしていたモンクエのカセットが、すでに河村の手の中にあった。

それは、駿河がねだったわけでもないのに、父が「今流行っているらしいな」と余計な気を利かせて買ってきたものだった。

父としては、友達の影すらなかった息子が、最近よく遊びに出掛けるようになったと母から聞き、仲間外れにされないようにとの善意で買ってきたのだ。

ちなみに駿河は、最初こそ「余計なことをしやがって」と思っていたが、実際に遊んでみるとやはり面白く、休日には一日中モンクエをしてしまうほどだった。

もちろん「持っていない」と嘘をついていたわけではない。

ただ、モンクエを持っていない河村たちの前では、話題が出ても知らないふりをしていたのだ。


駿河に緊張が走る。

モンクエを持っていない仲間だと思っていた友人が、実は自分だけ隠し持っていた。

決して気持ちの良いものではないだろう。

しかし、河村の反応は予想外だった。

「おっ、モンクエ持ってるんだ。やってみたかったんだよな。これやらしてよ」

むしろ、嬉しそうにすら見えた。

結局、その日を境に河村たちもモンクエに嵌った。

それ以降、晴れの日は外で遊び、雨の日はモンクエをするというのが自然な流れになった。

ただし、晴れの日に外で遊ぶことには、どこかこだわりがあった。

彼らのグループができたきっかけが「外遊び」だったからだ。

それは、彼らにとって一種のアイデンティティのようなものだった。

内心ではモンクエをやりたい気分の日でも、晴れていれば外で遊ぶ――それが暗黙の了解になっていた。

余談だが、モンクエを持っていなかった三人――河村を含め――は、それぞれ誕生日プレゼントとして、結果的にモンクエを買ってもらうことになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ