序文
【がらくた】
使い道や値うちのなくなった雑多な品物や道具類
――大辞泉より引用――
とあるゴミ屋敷の主人は、溢れ返るそれらを「宝の山」と呼んだ。
また、とある老人は、廃墟と化した建物を見上げ、目に涙を浮かべた。
さらに、とある女は、山奥にある誰も見向きもしなくなった石像を、律儀に毎日掃除していた。
とある少年は、レストランのお子様セットに付属されたそれを玩具と形容した。
しかし一年が経つ頃には、それはガラクタへと変貌していた。
ガラクタと認定された末路は、決まって焼却炉行きである。
だが幸か不幸か、床に転がったそれを少年は無意識に蹴飛ばしてしまい、ベッドの下に隠れた。
これにより、それは焼却炉行きを免れた。
一方の少年は、かつてガラクタ扱いしたそれを押入れから引っ張り出した。
自嘲の笑みが溢れる。
積もった埃を払い落とすと、灰色であったそれがカラフルに彩られていく幻影が広がる。
電気を通すと、それは懐かしい音色を立てて起動した。
少女はそれを踏んづけて、「イタッ」と小さな悲鳴を上げた。
腹を立てた少女は、容赦なくそれをゴミ箱に放り込んだ。
少女はそれをガラクタと呼んだ。
だが、一つ下の弟はそうではなかった。
怒り出した弟に、少女は「床に放っておく方が悪い」と捨て台詞を吐いた。
ガラクタとは、所詮、人の主観による産物である。
ただひっそりと佇み、時に反感を買っては、理不尽な仕打ちを受けるだけの哀れな存在。
それでも――我々はどこまでも従順なのであった。
この国では、少しでも異なる者は“ガラクタ”と呼ばれる。
そして今日も、誰かが焼却炉へと運ばれていく。
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