いい店
シンは胸を張り、常連たちの前に立った。
「ちゅうもーく! みんな!ECOの新装備【天照大御神】だ!ドヤッ!!」
だが――
常連たちの視線は、まったく別の方向に向いていた。
「へ~。それよりハルカちゃん、ビールおかわり!」
「ほーそりゃすげーな。あ、俺も!」
「いや~カワイイね~!」
「うむうむ。ますます美人になってきたのぉ!」
シンは思わず叫ぶ。
「いやいや、大事な話でしょ!?」
ハルカは胸を張った。
「しょうがないネ! アタシの可愛さはサイキョー!!
「シュウの為に常にカワイイが向上するのが嫁の務め、皆アタシに見惚れるのは仕方ないネ!」
ドヤ顔
シンは頭を抱えた。
「……まぁいい!」
指を突きつける。
「新技を見ても目を離せるかな!?行くぞ」
ECOは店内を見渡した。
「……ここでですか?」
天井。
壁。
暖簾。
「火災の可能性があります。非合理的です。火災報知器が反応する可能性が95%____」
シンは少し黙った。
「………じゃあ半分くらいの出力で……」
「了解しました。」
次の瞬間。
店内が、光で満たされた。
ECOの手の上に、小さな火球。
シンはドヤ顔。
「名付けて――【太陽の雫】!」
「おぉ!」
少しだけ歓声が上がる。
だが次の瞬間。
マサさんがポケットからタバコを出した。
「いや~火を見ると吸いたくなってねぇ。ECOちゃん、ちょっとそのままね。」
タバコ着火。
仁さんも近づく。
「お、いい火力だな。キャンプに良さそうだな」
「そうだよなぁ!ほら、こうしたら焼き鳥とかいけそうじゃん」
資さんが焼き鳥を差し出す。
「ちょっと炙るわ。」
タカさんが刺身を持ってくる。
「このサーモン炙ったら美味そうだな。」
ジュゥゥゥ。
「「うまい!!」」
その一言で、常連たちが一斉に動いた。
焼き鳥。
刺身。
干物。
みんな【太陽の雫】で炙り始めた。
シンが叫ぶ。
「待てやッ!!違うだろ!!」
指差す。
「天照大御神といえば世界を照らす神だぞ!!」
皆がが頷く。
「いや~ん♡宗次郎さんの頭も負けてない輝きよ~♡」
宗次郎さんも悪ノリする。
「我が頭こそが世界を照らし、明日を照らす宗次郎ナリー。」
そして資さんが言う。
「俺の頭だって照らすことなら負けねぇぜ!」
ハゲ頭がピカッと光る。
シン
「はいはい、そこ競うな!!」
ECOは静かに分析していた。
「……理解しました。」
「え?」
「この能力は、居酒屋経営に非常に有効です。」
「いいんか?!神装備の使い道それで!?」
今日の居酒屋『深夜の世界』は笑いが外まで響いていた。
笑い声。
怒鳴り声。
乾杯の音。
怒って。喧嘩して。
そしてまた笑って。酒を交わしている。
ECOは少し離れた机の上から、それを眺めていた。
理解できない。効率が悪い。注文も少ない。
なのに誰一人帰ろうとしない。利益にもならない。
その時、横の席に、ゆっくりと福ちゃんが腰を下ろした。
「今日も賑やかじゃのう。」
「はい。騒音レベルは通常より12%増加しています。」
福ちゃんは小さく笑う。
「はは、そうかそうか。」
しばらく二人で店を眺める。
シンが怒鳴る。
「だから資さんッ!焼き鳥まだ焼けてねぇってッ!」
「細けぇ男だなぁ!!レアが旨いんだよ!
「俺が営業停止くらうって!」
また笑いが起きる。
福ちゃんがぽつりと呟いた。
ECOは視線を向ける。
「……まったくです。利益になりません。」
福ちゃんは小さく笑った。
「はハハハ、そうかもしれんなぁ。じゃがな____」
店の奥を見る。
「人間ってのは、ああして繋がっていくもんなんじゃよ。」
ECOは少し考える。
「理解できません。」
福ちゃんは頷いた。
「うむ。ワシも若い頃は分からんかった。」
徳利をゆっくり回す。
「じゃが年を取ると分かる____人間はな。」
優しく笑う。
「寂しい生き物なんじゃ。」
ECOの瞳がわずかに揺れる。
「……寂しい?」
「そうじゃ。」
シンを見る。常連たちと騒いでいる。
「だからこうして集まる。怒って。笑って。酒を飲んで。
そうやって、誰かと共に人生を過ごしていくんじゃよ」
ECOは黙っていた。
処理できない感情。
理解できない行動。
それでも――
何かが記録されていく。
福ちゃんがぽつりと言う。
「ECOちゃん。」
「はい。」
「だから、シンさんのこと、頼んだぞ。」
ECOが少し首を傾げる。
「いえ、元々マスターは私の所有者です?」
福ちゃんは笑った。
「いやいや、そういう意味じゃなくてな____」
少しだけ遠くを見る。
「これからも、あの子の隣にいてやってくれ。」
ECOは答えた。
「……了解しました?」
福ちゃんは満足そうに頷いた。
そしてゆっくり立ち上がる。
「さて。ワシも、もう一杯もらおうかのう。ECOちゃん」
「はい」
「シンさんはな」
少し笑う。
「ちょっとバカじゃろ?」
「……否定できません」
福ちゃんは笑った。
「じゃから」
優しく言う。
「隣で見ててやってくれ」
福ちゃんは満足そうに頷いた。
そして店を見渡す。
笑い声。
酒。
怒鳴り声。
全部。
ゆっくり目を閉じる。
「……いい店じゃなぁ。」
しばらく沈黙。
ECOが呼ぶ。
「福ちゃん。」
反応はない。
ECOは静かに言う。
「……生体反応、停止。」
その瞬間。
店の奥からシンの声。
「ECO!悪い、その皿取ってくれ!」
ECOは振り返る。
シンはまだ気付いていない。
笑い声も続いている。
ECOはもう一度福ちゃんを見る。
静かな顔。
まるで、眠っているようだった。
ECOは初めて、少しだけ考える。
――これが人間の終わり。
そして静かに言った。
「……おやすみなさい。」
その夜。
居酒屋「深夜の世界」は、
いつもと同じように賑やかだった。




