表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/67

居酒屋流の修行 其の一 それぞれの師匠

翌日――

シンとECOは、店の奥の畳の間に正座していた。


ちゃぶ台の上には徳利とおちょこ、そして木刀や竹刀、さらには使い古しのサンドバッグまで雑多に並んでいる。

 ……どう見ても修行場というより、酔っ払いの秘密基地だ。


最初に口を開いたのは、福ちゃんだった。


「大切なのは、まず“待つ”ことじゃ。例えば店に客が来なくても、じっと座って待つ。

そうすると周りの音がよく聞こえてくる。一人一人の足音が、どの方向へ向かうかわかるようになる。つまり、忍耐力じゃ」


「は、はいっ!」

シンは必死にメモを取る。


ECOは無表情のまま一言。


「待つことと戦闘に直接的な相関性はあるのですか?」


福ちゃんはECOの質問には応えず、にこやかに笑うだけだった。


続いて、ドスの効いた声が響く。


「シンさん! 声だ! 声がデカけりゃ勝てるんだよ!」

大声自慢のマサさんが、腹の底から声を張り上げる。


「ハァッ!!! オラァァァ!!!」


突然の雄叫びにシンは飛び上がり、ECOは耳を押さえた。


「……鼓膜への有益な効果は、確認できません」


「違う違う! 大声を出せば自然と力がみなぎる! 必殺技でも叫ぶんだよ!」


シンは少年のように目を輝かせる。


「おお!!なるほど! “必殺技”か!!ECO____」


ECOは無情に切り捨てた。


「嫌ですよ……合理性ゼロです」


次にみっちゃんさんが両手を広げてウィンク。


「それは愛よ愛♡ 全てを受け入れ、全てを愛すの♡

そうすれば相手の全てがわかるわ♡ 愛の力よ♡」


「……非科学的です。戦闘において“愛”は数値化不能です」


「も~ECOちゃんたら冷たい♡ でもそのツンツンがたまらないのよね~♡」


そして酔っ払い気味のカズさんが豪快に笑いながら語り出す。


「聞けよシン! 若い頃の俺はなぁ、一人で百人相手にしてだな――!」


「え、すごい!」

シンが目を輝かせる。


「で、その時はな……まぁ、逃げたんだけどよ!」


「「逃げたんかい!!」」


総ツッコミを入れ、場は笑いに包まれる。


そして、資さんが胸を張って言った。


「人生ってのはうどんと同じ! 細く長く、相手を思ってこねれば必ず美味くなる……大切なのは相手を思う気持ちだよ」


「わかる♡」


「……やはり非合理的です」


ECOは呆れ気味に淡々とデータ入力していた。


最後に仁さんが竹刀を構え、腕を組んで語る。


「戦いは集中だ。相手の動きを見極めろ。けして目を逸らすな、慢心は身を滅ぼす。

集中すれば『剣は銃よりも強し』だ。____つまり集中力だ」


 ピタリと止まる竹刀の一撃に、シンは思わず背筋を伸ばす。

「おぉ…集中力……なるほど」


「いいから動け! 動けばわかる!」



 ---


こうしてシンとECOの「居酒屋流特訓」が始まった。


福ちゃんの"じっと待つ修行"

仁さんの"集中力を研ぎ澄ます竹刀稽古"

マサさんの"大声を張り上げる発声訓練"

みっちゃんの"愛を叫ぶ練習"

カズさんの"武勇伝を語る"

資さんの"うどん作り"


ECOは終始首をかしげながらも、どこか不思議そうに彼らを観察していた。


数日間続けた。


「……理解できません」


マサさんがちゃぶ台をバンッと叩き、立ち上がる。


「よし! 全員で必殺技を叫ぶぞ!シン、お前からだ!」


「え、えぇ!? いきなり!?」


「迷うな!技名は勢いで決めろ!」


シンは冷や汗をかきながら拳を握り、咄嗟に思いついた単語を叫んだ。


「えーと……“スーパー居酒屋パンチーーッ!!!”」


「いいぜ!その調子だ!!」


「……ダサい」


 ECOの無表情な一言が飛ぶ。


「うるせぇ!こう言うのは勢いだよ勢い!次、みっちゃん!!」


 マサさんが吠えると、みっちゃんがすかさず両手を広げて叫んだ。


「“ラブリー♡ハートアタックゥゥ♡♡”」


「……恥ずかしくないんですか?」


「恥ずかしいとか関係ないの! 愛よ、愛!♡」


 続いて資さんが胸を張って叫ぶ。


「いくぜ!“秘伝!うどんスパイラルーーッ!!”」


「それはパンチでは?」


「黙って食らえぇぇぇ!」


 最後にマサさんが雄叫びをあげる。


「“大居酒屋ソニックブーーーム!!!”」

皆は耳をふさいだ。

畳の間がビリビリ震え、徳利がカタカタ揺れる。


「…………」


 シンはニッと笑った。

「どうだECO?これが“居酒屋流”だ!」


 ECOはしばらく沈黙したあと、ぽつりと。


「……非合理的です。が………悪くはなさそうです。」


 みなが一斉に雄叫びをあげた。


「「「うぉぉぉおおおーーッッ!!! デレたーーーッッ!!!」」」


そして、仕上げとして最後のテストが行われた。


 ちゃぶ台の上には、おでん鍋、天ぷらの山、ジョッキ、そしてなぜかストップウォッチ。

もう修行というより宴会の芸にしか見えない。


皆、酒がまわってきたのだろうか

「よーし!“居酒屋流最後の特訓”を行う!」

マサさんが腕を組み、威勢よく宣言する。


 ---


熱々おでんキャッチ

「まずは根性を試す“おでんキャッチ”だ!」


ぐつぐつ煮えたぎるおでん鍋の前に立たされるシン。

「は?!はぁ!? これ素手で!?」


「そうだ! 指先に集中し、耐久力見せてみろ」

マサさんがニヤリと笑う。


「よ、よしっ……!」

 シンは気合いを入れて大根に手を伸ばした。


「アッッッッッッッツ!!!」

 飛び上がるシン。


「まぁそうなるよねぇ~」


 一方、ECOは無表情でこんにゃくをスッとつまみ上げ、平然と皿に移した。


「……内部温度八十五度。耐えられないほどではありません」


「ば、化け物か?!」

 常連たちがどよめいた。


完全に悪ノリである。


 ---


唐揚げ早食い


続いて資さんが天ぷらの山をドンと置く。

「次はスタミナだ!天ぷら早食い勝負!」


「よし、負けねぇぞ!」


 シンは勢いよく口へ放り込むが――。


「モグモグ……あっ、油っぽ……ごふっ!」

 数個でギブアップ。


 ECOは一つだけ食べて淡々と報告する。

「揚げ物は効率が悪ので、摂取カロリーと燃費のバランスが崩壊しています」


「お前は真面目にやれよぉ!」


何をしても笑いが起きる。いつもの光景になっていた。



 ---


ジョッキ持ち上げ


 ラストはマサさんがジョッキを掲げる。

「この重りのついたジョッキを使ってビールを飲め!」


シンは真面目に開始した。

だが皆は重りを外し、にグビグビ飲み始める。


「ぷはぁ~!かぁ~!!筋肉痛より酔いが先に来るな!」


「"かぁ~!" じゃねぇよ!もうただの飲み会じゃねぇか!!」



この後もテストは続いた。




 ---


全てのテストが終わった。

シンは汗だくで横たわり、それを見下すようにECOは無表情で見ていた。


「……これはテストではなく、ただの宴会です」


 その冷静な総括に、皆、顔を見合わせた。

「そうだよ?」


「はぃ?では、何の為の修行だったのですか?」


 一同は揃ってこう答えた


「「さぁ?」」


「……非合理的です」


 その小さな独白を、シンだけが聞き取っていた。

 彼は思わず笑みをこぼし、拳を握る。


「気にすんな……これでいい。俺たちは、絶対に強くなってるッ!!」


「根拠がありません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ