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鍋は2度刺す 前編

流水寺や天草たちとの、ぎくしゃくした関係は続いていた。


本日、12月29日。


退院してからというもの――

なぜか一度も「天草フィーリングガチャ」は開催されてない。

流水寺との修行も、どこかよそよそしく、

以前みたいな本気のぶつかり合いはない。


シンはカウンター席に座り、深くため息をついた。


「はぁーーー……あーーーーーーぁ……はぁ………どうしよ……」


その奇行じみた溜息を見かねたECOが、淡々と提案する。


「マスター。非合理的な溜息を繰り返すより、

 アクションを起こすべきです。原因は不明ですが……“アレ”を使用してみては?」


ECOが指さす――


そこには、あの日衝動買いした土鍋が鎮座していた。


「統計上、約8割が

『鍋を囲むことで人間関係が改善した』というデータがあります。

実行する価値は高いかと」


「………そうか」


シンは小さく呟く。


「そうか、そうだよな!そのために俺は鍋を買ったんだ!」

※違います。


思い立ったが吉日。


シンはすぐさま流水寺と天草へ連絡を入れ、鍋パーティを企画した。


12月30日


客室は派手に飾り付けられていた。

風船、紙飾り、簡易的にパーティ会場。


その光景を見たECOが、こめかみを押さえる。


「マスター……。

なぜ“仲直り目的の鍋パーティ”の名称が

『ECO誕生日前夜祭~闇鍋~』なのですか?」


シンはニヤリと笑って答える。


「いや~普通に誘うの恥ずかしくてさ!

 ECOをダシに呼んでみたんだよ!」


一拍置いて。


「鍋だけに!ハハッ!」


「…………」


ECOは無言で睨んだ。


「お邪魔するでござるよ!」


「やっほ~」


表口で二人の声が聞こえた。


「お!きたきた!!」


流水寺と天草が到着し、何気ない会話を交わす。


――しかし。


妙に優しい。妙に気を遣われてる。

それが逆に、シンはモヤモヤした。


(この“腫れ物扱い”みたいな空気……嫌いだなぁ)


そんな沈黙を、ECOの確認がぶった切る。


「本当に……全ての材料を投入しても、よろしいんですね?」


その一言に、三人は顔を見合わせた。


キョロキョロ。


キョロキョロ。



誰も止めない。


誰も責任を取らない。


「……お、おう?」


「ん?~いいんじゃない?」


「闇鍋でござるからな!」


曖昧な同意が重なった瞬間――


コトン。


三人の前に、蓋付きのお椀が各々置かれた。


「……なぁECO?鍋は?」


シンが不安そうに首を傾げる。


「闇鍋って、普通“鍋”を囲むよな?

 なんで最初からお椀なんだ?」


ECOは、どこか疲れたように息を吐いた。


「……はい。理由を説明します」


一拍置いて。


「各々の食材を投入したところ――」


さらに一拍。


「固形物は、全て消失しました」


「「「……………え?」」」


蓋の隙間から、

異様に甘ったるい匂いがする。


沈黙が数秒続いた。


「……なぁECO」


シンが恐る恐る口を開く。


「念のため聞くけどさ」


「はい」


「全員、“固形物”だったよな?」


ECOは指を折りながら説明を始めた。


「はい。ではまずは天草様」


「はいはい〜?」


「持参されたのは――綿菓子です」


「美味しいよね~!豆乳って聞いたから~

 直感で美味しいと思ったんだ~」


「そりゃ溶けるでしょうよッ!!」


即ツッコミが炸裂する。


「お前ッ!!それ、鍋じゃなくて砂糖水だろ!!」


「えー?甘くてふわふわで幸せになれるじゃん~」


「鍋に入れたらふわふわじゃねぇんだよ!

 幸せになる前に地獄が始まるんだよ!!」


ECOは気にせず続ける。


「次に、流水寺様」


「……はい」


「持参されたのは――高級チーズケーキです。かなりの名店の」


「手土産を買ったのはいいが……具材のことを忘れてな!

 まぁいいかと思ったでござる!」


「忘れんなやぁ!!」


「なんでよりによってデザート界の王様を鍋に沈めるんだよ!!

 鍋とチーズケーキが出会う世界線は存在ししないんだよ!!」


「まぁまぁ。高級ゆえ、美味しいと思うでござる」


「知らんわ!!」


ECOは淡々と続行。


「そして、マスター」


流水寺が腕を組む。


「……ところで散々言ってきた本人は何を入れたでござる?」


「マシュマロです。それも大量です」


「我々と大差ないでござらぬか??」


「え?豆乳鍋といったらマシュマロ豆乳鍋じゃないの?」


「入れないね~!!

 あ、焼きマシュマロ食べたくなってきた~」


「いやほら、伸びて美味しそうじゃん?」


ECOが静かに結論を述べた。


「結果――

 綿菓子は溶解。

 マシュマロは融解し液状化。

 チーズケーキは原型を留めず分離しました」


「「「科学の実験かよ(でござるな)(だね〜)!!!」」」


天草が蓋を開け、覗き込む。


「わぁ~♡真っ白でとろとろでかーい~!(可愛い)


「うん。可愛いくはない!むしろ……なんか嫌だ……」


流水寺も腕を組む。


「……コレはコレは見事なまでの甘味の融合。ふむ、意外といけそうでござるよ?」


ECOは締めくくる。


「よって現在の鍋は――

 “豆乳ベースのスイーツスープ”です。」


「鍋の予定がぁぁぁぁぁ!!」

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