楽しい努力の、その先に
◆朝:天草の対戦選び
天草が相手を選び、シンが挑む。そして勝つ
勝率驚異の75%
この一連の行為を
【天草フィーリングガチャ】と呼ぶ事にした。
「あ、あの子いいかも~」
「今日の風、左からだし~」
「あ!あの子カフェオレ好きそう〜♪」
選定基準は一切不明。
「ホントどうなってんの?天草は未来見てんの?的中率高すぎてECOが混乱してるんだけど?
『非科学的…理解不能』……だって…」
思わず聞くと、天草は笑いながら手を振った。
「それ!いいねぇ~!今度使おっかな~♪
『あなたの未来、見えてます~『手に注意してね♪』って(笑)」
「やめろやめろ!詐欺師のセリフだろそれ!」
「でもさ~、ホントに直感なんだよ直感♪
“なんか勝てそう”って思った相手を選んでるだけ~」
(天草の……脳の構造どうなってんだ……)
理屈は一切わからない。
選択理由も説明できない。
だが――
事実として、勝っている。
それが、何より恐ろしかった。
「………なぁ」
一拍置いて、シンは真顔で言った。
「競馬、やってみたら?」
「え~?いいの~?」 天草は目を輝かせる。
「やっぱ無し!色々怖い。」
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◆ 昼:流水寺の死ぬほど優しい(※大嘘)特訓
「さぁシン殿!
ビットを二つ同時に動かせるなら――四つもいけるでござる!」
「いや待て待て……理屈はわかるけどさ……
脳が……脳が悲鳴上げてる……」
「問題ないでござる!
脳とは鍛えれば増えるものでござる!」
「増えねぇよ!!」
流水寺が手を打つ。
「では、まずは軽く準備運動でござるな」
「準備運動……?」
その瞬間。
――シュッ!シュッ!シュッ!
空中に展開された16機のビットが、
上下左右、縦横無尽に逃げ回り始めた。
「16機のうち、一つでも落とせたら合格でござる。」
「え、ちょ、待っ……
これ全部追うの!?無理だろ!?人間だぞ俺!!」
シンは必死にビットを操作し、追跡する。
「あっ!そっち、いや、コッチ!!!嗚呼ああぁ」
――十分後。
「わからん!!どれがどれだかわからん!!」
流水寺は腕を組み、満足そうにうなずいた。
「ふむ。
シン殿、このことわざを知っているでござるか?」
「……なんだよ」
「『二兎追う者は一兎も得ず』」
「まぁ…知ってるけど?」
「だが――」
流水寺はニヤリと笑う。
「二兎追う方法は、必ず存在する」
「へぇ~続きあったんだな、初めて知った。いい言葉だな!」
「今、拙者が考えたでござる!……が、きっとあるでござる!」」
「ふざけんなッ!!信じたじゃねぇか!!
ちょっと感心しかけた自分が腹立つ!!」
流水寺は一歩前に出る。
「まぁまぁ、方法は必ずあるものでござるよ。
さて、次は――拙者が追う側になるでござる」
「……は?」
その瞬間。
16機のビットが一斉に向きを変え、
シンと彼のビットに向かって突進してきた。
「おい待て待て待て待て待て!?それは聞いてな――」
――ドン!ガシャ!ゴロゴロ!!
「ぎゃあああああああああ!!?」
庭を転がるシン。
砂埃の中で、仰向けのままピクリとも動かない。
流水寺は腕を組み、満足げに頷いた。
「うむ。
確実に成長しておる」
「どこがだよ!?
この状況で言われても全然嬉しくねぇぞ!!」
遠くでビットが静かに停止する。
そして流水寺は、ぽつりと付け加えた。
「だが――
これを耐えられるようになれば、本物でござる」
シンは空を見上げ、かすれた声で呟いた。
「……本物になる前に、俺の命が尽きそうなんだが……」
空は、どこまでも晴れていた。
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◆ 夜:PR撮影+唐揚げの特訓
「シンさ〜ん!笑って!」
シンは無理に笑顔を、作った。
「こ、こう……?」
「アハハハ!!!ヒデェ笑顔だ!酒が旨い!!」
「ふざけんなぁ!!」
ECOも隣で真剣にうなずく。
『ですがマスター。ミュウ様の指導は合理的です。
常時“笑顔を生成する訓練”は有効だと判断します』
「ECO、お前……最近、絶対楽しんでるだろ?」
「否定しません」
「するところだろ!?」
しかし、投稿されたPR動画はなぜか人気爆発。
・【深夜の世界のメイドが可愛すぎる件】
・【店長(男)、思った以上に似合ってて草】
・【推しマーク決めた】
・【ECOちゃん尊い】
・【シンさんの笑顔、逆にクセになる】
「……なんか、俺の“推しマーク”まで生まれてない?」
「はい。“渦巻き”のようなマークですね」
「なんで渦巻!?!」
「感情が渦巻くそうです」
「いったい何と葛藤してんだよ!!」
ガチで危険なコメントも、ちらほら混じる。
シンはスマホを置き、ぽつりと呟いた。
「…………俺、本当にこの路線でいいのかな……」
ECOは一瞬だけ間を置き、答えた。
「問題ありません。人気枠獲得のためです」
「そうか……(なんか違う気がする)」
「それより唐揚げ、焦げてます。」
「ぎゃぁぁぁあああッ!!!!」
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(……まぁ、みんな本気で応援してくれてるんだもんな)
そう思おうとした、その時。
ぐらり、と。
「……あれ?」
視界が一瞬、にじんだ。
「マスター?」
「……いや、なんでもない」
背中を、冷たいものがすっと流れ落ちた。
額にも、掌にも、じっとりと汗が滲んでいる。
シンはそれを気づかなかったふりをして、
無理やり背筋を伸ばし、
油の前に立ち続けた。
笑顔の練習も、
天草フィーリングガチャも、
ビットの操作も、
唐揚げの研究も――
全部、まだ始まったばかり。
けれど。
疲労だけが、確実に、積み上がっていた。




