風を掴んだ“一瞬”
雷の身体が低く沈む。
稲光のように空気が震え――
「次で……終わり」
その声に、ECOの反応がわずかに遅れた。
『マスター。…判断を』
シンは、深く息を吸う。
(……ツバメ。お前の“風”__やってみるよ)
余計な音を切り捨て、目を閉じ、
“視覚”ではなく――“空気の流れだけ”を見る。
スッ……と風が左へ流れた。
(来る……!)
「ECO、右に回避ッ!!」
『??了解??』
「“風”だ!!流れを読むぞッ!!」
『なるほど。理解しました』
ECOの機体が滑るように動き、雷が迫る。
稲妻のような踏み込み――しかし。
「……っ!」
剣先はECOの肩をかすめただけ。
天草の目が丸くなる。
「えぇ~~!? 今の直撃でしょ~!?
なんで避けるの!?」
流水寺も酒を落としそうになっている。
「シン殿……今のは確かに当たると……!」
雷は静かに着地し、剣先を確かめた。
「……今のは、何?」
ECOが淡々と答える。
『マスターの“直感”です』
シンはどこか気恥ずかしそうに鼻をかいた。
「いや、直感ってほどじゃないけど……
ツバメって子に少し教わっただけで……」
雷の瞳がわずかに細められる。
「少し……興味深い」
だが――
「では、次は本当に終わり」
ふっ。
雷の姿が消えた。
「ECOガード!!」
『反応が……追いつきません』
雷がECOの背後に現れ、
そっと胸部へ掌を当てる。
「……あなたの“風”、まだ“そよ風”」
ECOの膝が落ちた。
勝負は、その瞬間、決まっていた。
「ストップ! そこまで!!」
流水寺が滑り込み、雷の動きを止める。
「非公式とはいえ……見事でござる。勝者、雷殿!」
雷は軽く頷き、天草の元へ戻った。
天草はニコニコしながら言う。
「いや~~びっくりしたよ? 一撃を避けるなんてさ~?
雷ちゃんの攻撃だよ~?」
「……まぐれだよ。集中力も途中で切れたし」
「でも“出来た”じゃん。才能だよ才能♪」
「やめろよ、大したことないって……!」
シンが照れる横で、ECOが静かに言う。
『マスター。あなたの判断は……悪くありませんでした』
「ECO……?」
『私は学習します。
“非合理的な要素”も、勝利要因として解析します』
それは、ECOが初めて“自分の限界を広げようとした”瞬間だった。
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試合後、再び飲み直すことになり――
天草が流水寺に小声で近づく。
「流水寺くん……ひとつ提案なんだけどさぁ」
「何でござる?」
「シン君のランキング……上げてみない?」
「……ふむ。悪くない話でござるな」
2人はニヤリと悪い笑みを交わした。
(な、なんだ……この嫌な予感……!?)
シンが小さく震える一方で、
雷は淡々とECOを見つめていた。
「あなたと……また戦いたい」
ECOも静かに答える。
『次は……負けません』
淡々とした声なのに、どこか誇らしげだった。
――風は、確かに吹き始めていた。




