直感主義者
少し悪くなった空気を変えようと、流水寺がわざとらしく声を張った。
「ここは酒の場でござるぞ! 堅苦しい空気は勘弁!
さぁさぁ、この高そうな酒、いかがかな!」
「そうそう、シン君、もっと飲みなよ~?」
「あ、あぁ……もらうよ。これ……喉が裂けそうだ!」
慣れた接客スマイルが反射的に出る。
そんな中、アリスの隣に座った雷がじっとシンを見つめていた。
「……あなた、アリスの“お気に入り”の御子のマスター?」
「えぇ、そうよ。」
アリスの何気ない一言に、シンはほんの少し嬉しくなる。
「そ、そうなの?え、なんか嬉しい!!」
「……別に貴方を気に入っている訳じゃないわ。
あの子を気に入っているだけよ。」
雷は静かに立ち上がった。
部屋の空気がピン、と張り詰める。
「あなたの御子……ECOと戦いたい」
「え?」
シンが持っていた盃が止まった。
天草が慌てて手を振る。
「あ~~雷ちゃん雷ちゃん!今日は戦いに来たんじゃないよ~?
楽しく飲む席だよ~?」
「……マスター。私は直感で言っている。」
「oh~僕たちの座右の銘~」
シンが頭を抱える間に、雷は一歩踏み出す。
その瞳は冷たく、寸分の狂いもない“狩人”の目だ。
「ECOを連れてきて」
流水寺が補足する。
「天草殿は“直感主義者”と呼ばれておる。
「フィーリングって……直感のこと?」
「うん!直感主義者って書いてフィーリングって読むの!」
「無理矢理すぎるだろ!?」
天草が手を叩いた。
「まぁ~楽しそうだからやろうよ~!
ECO vs 雷!特別エキシビション!」
「いやいや待て待て!?なんで急に!?
ってか、エキシビションって何!?」
「良い機会でござるよ、シン殿。
経験が力になるでござる。」
流水寺は淡々と盃を置き、すでに歩き出していた。
「稽古場の準備をしてくるでござる。」
「話が整うの早すぎるだろ!?酔ってるんじゃないのか!?」
天草が笑う。
「シン君、よろしく~。僕たちは“上”で待ってるよ」
胸に、ビリッと電流が走る。
飲み会は、一瞬で戦いの場へと変わった。
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◆ ECO、呼び出される
呼び出しを受け、ECOが姿を現した瞬間。
「なぜこんな事になったのですか? 店、忙しいんですよ? ……まぁアリスさんの誘いなら断りませんが。」
開口一番から“説教モード”全開。
シンは思わず肩をすくめる。
「その……色々あってだな……」
言い訳を並べる前に、雷がすっと一歩前に出た。
その動作に、場の空気が一瞬だけ冷える。
「あなたが……ECO?」
静かな声。だが鋭い。
ECOもまた、無表情のまま返す。
「そうです。あなたは?」
「私は____雷。第四世代の御子。」
「……そうですか。私は初期型_第一世代の方が伝わりますか?」
「そう。珍しいのね。」
言葉は短い。それでも互いの“戦闘領域の圧”が、ふっと広がった。
周りの空気が一気に張りつめる。
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◆ 非公式試合が始まる。
流水寺が軽く手を叩いた。
「では非公式試合、怪我なしようにでござるよ~。
特に天草殿、やりすぎないように!」
「は~い♪」
雷が静かに前へ。
ECOは位置を調整し、無表情で構える。
「_では、戦闘、開始!!____でござる」
シンがビットを展開しECOは守りの態勢にはいる。
シンはまず様子見で攻めてみる。
「雷ちゃん、上に跳んで~♪」
『……根拠は?』
「ないよ♪」
『……了解』
雷は反射ではなく、“指示”だけで跳んだ。
光弾は紙一重で空を切る。
「……避けた?」
「イエ~イ!当たり~!右から来ると思ったんだ~!」
天草は楽しげに笑う。
続けざまに攻撃を仕掛けるが――
「ん~~右に5センチ避けよっか」
『了解』
また避ける。
「……誘導だけ?」
シンは息を呑んだ。
ECOが淡々と告げる。
『マスターの攻撃成功率0%。
天草の指示__演算不能。
不確定要素_100%』
「じゃぁ、雷ちゃん、次は攻めてみよ~。“適当に正面から”」
『了解』
雷がECOに目掛けて走る。
フェイント、変則軌道――予測できない攻撃に防ぐのが手一杯。
天草が笑う。
「ほら、“考えるより先に身体が動く時”ってあるでしょ?」
その瞬間シンは直感する。
――この感覚……ツバメの“風”とそっくりだ。
合理ではなく、計算でもなく。
ただ “直感”だけ。
雷が静かに着地し、淡々と言う。
『あなた、反応は悪くない。でも__普通。』
「じゃぁシン君~少しペースあげるよ~」
天草はニッコリと笑うと空気が変わった。
『マスター…来ます……!』
ECOがシールドを構える。
雷の周囲に火花が散り、姿が消える。
「速い!」
そこに天草の声ひとつ。
「雷ちゃん、上からド〜ン!」
雷は真上から降下し、ECOのシールドを粉砕した。
『くっ?!反応が追いつきません』
続けざまの死角攻撃――
完全に読み切っている。
天草が宣告する。
「シン君。僕ら“上の世界”を少し見せてあ~げる!」
挑発ではなく、ただの事実。
雷が構える。
「次で終わり。」
ECOの瞳が細くなる。
『マスター。次の一手……どうしますか?』
シンは拳を握り、息を呑んだ。




