消えた道しるべ。
シュウとハルカが結婚して数週間。
二人は見事に店の戦力となり、厨房もホールも驚くほどスムーズに回り始めた。
「いらっしゃいネー!」
「ハルカさん3番テーブルにお願い!」
「了解ネ♪」
若い夫婦の息の合った掛け声が店中に響きわたり、
誰もが羨むおしどり夫婦
「あら~♡若いってのはええわね〜♡私ももう少し若ければ____」
「オメーは若くても誰も現れねぇよッ!!」
店内に笑いが起きる。
店の端で、シンは湯呑みに口をつけながら小さく息をついた。
(……うん。楽になった。間違いなく楽になった。)
ECOが横で無表情に言う。
「マスター…休憩時間が過ぎてますが……表情から“さみしさ”が47____」
「やめろやめろ数値にするな!……あぁ寂しいさ」
確かに——ハルカの遅刻がなくなり、仕事を熱心。
オマケにメリーは働き者、
ハルカができない事をシュウがカバー、
シュウができない事をハルカがカバー、
二人が忙しいならメリーとECOがカバー。
なんだかんだで上手くまわっていく毎日。
にぎやかで、笑える日々。
店の事は二人で完結してしまう。
今やシンの手はほとんど必要ない。
シュウと2人で店を継いだ日が懐かしく感じる
対して俺はどうか?
親父の味には近づけず、神楽の成績はイマイチ。
久遠も勝てず、何も得ず。
もういっそうの事、店をシュウとハルカに任せて神楽一本に……
なんて……頭をよぎる。
はぁ… 口を開けばため息ばかり……
「すまん。ちょっと出かけてくる。」
「そうですか、気を付けて下さいね」
皆に笑顔で見送られ、シンは店を後にした。
だんだんと、小さくなっていく笑い声。
いや、誰か停めてくれても良いんだよ?
8月の夜風に吹かれながら、シンは当てのない散歩が始まる。
−−−−−−−−−−−−−−−
てな訳で、お土産を片手に、流水寺の家にやって来た。
立派な塀に大きな門。インターホンを鳴らすのにも緊張する。
『お~~ぉ!よく来たでござるな!さぁさぁ門が開きますぞ~!____』
インターホン越しでもわかるウザさが今は安心する。
門をくぐり、大きな扉が開き、流水寺が現れる。
「急に来て悪い。なんか……たまには2人で飲みたくなってさ」
手土産を掲げ気軽に挨拶をした。
「お~~ぉ。コレはコレはッ!!美味しそうな肴ですかぁ!
ちょうど立派な酒が入ったところでござる!!
今、友人が来てるから一緒に飲むでござる!」
そう言って、部屋に案内される。
「紹介しよう!!友人の天草殿だ!」
小柄だが姿勢のいい男性が前に出る。
「ど~も! 天草で~す!よろしくで〜す!」
初見にもかかわらず、近い距離感で空気が和む。
その後ろで、アリスと会話をする彼の御子が静かに会釈した。
「……雷です」
短く、それだけ。
(あ、この二人は____)
直感で分かった。
――“上位の人”だ。
酒が並び、気づけば、シンと流水寺、天草の三人。
その傍らで、アリスと雷の二人の御子も盃を傾けていた。
「で?シン君は今どのくらい強いの?」
天草が楽しそうに聞いてくる。
「……まぁ、ぼちぼち」
「でた~!ぼちぼち〜酒を交わした仲だから教えてよ〜」
流水寺が苦笑する。
「ちなみにさ、僕たち____」
天草が自分の胸を指で叩いた。
「今年の神楽のランキング8位なんだ〜」
「……え?」
思わず声が出た。
「え~~、反応薄くな〜い!? 結構すごいよ!?ホントだよ!!」
「ランキング……8位?」
満面の笑みで頷く。
「うん!」
雷が淡々と答えた。
「現在、8位です」
流水寺の様子からも虚勢もない。
ただ事実を述べている。
シンはグラスを置いた。
「……強いんだな」
「うん! 雷ちゃん強いんだー!あとかーいーんだ!!」
嬉しそうに天草は笑う。
雷が、盃を置いてシンを見る。
「あなた、御子使い?御子は?」
「…あぁ…そうだけど…今日は……店の手伝いを任せてる」
「そう……残念」
雷はそれだけ言って、再び盃に口をつけた。
今目の前に、6位の流水寺、8位の天草のがいる空間……
胸の奥で、逃げ場を塞がれるような電流が走った




