風切ツバメの夢道中 後半
「少し遅れたネッ!!(40分)けど今日も美女が見れた事に感謝して許す――
……って、なに? この状況??」
勢いよくドンッと戸を開けたハルカは、店内の惨状に固まった。
椅子は倒れ、皿は散乱し、
その中心では――見知らぬ御子が、ECOの攻撃を片手で“流し続けていた”。
「ハルカ様、お下がりください! 強盗の可能性があります!」
メリーが即座に前へ飛び出し、ハルカを庇う。
だがシンが慌てて手を振った。
「違う違う!強盗じゃねぇ!
ちょっと手合わせしてもらうつもりが……思った以上に白熱してんだよ!」
「白熱? “ちょっと”?……シンの“ちょっと”ほど信用ならない言葉は無いネ。」
ハルカのため息。対して、ツバメは汗ひとつ見せず。
ECOは軽い息遣いで立っていた。
「ふむ、とても正確な太刀筋だ。いい師を持っているようだね。」
ツバメはECOの斬撃を滑るように受け流し、涼しい笑みを向ける。
「でも――当たらなければ意味がない。
君に、“風”を教えるとしよう。」
「“風”……スキルではないのですね?」
「うん、少し違う。型の話かな、」
ツバメは帽子のつばを押さえながら、ECOの周囲を回る。
「君の戦いは“正確すぎる”。
一手一手は完璧だが……“流れ”がない。」
「流れ……」
「そう。ただ“斬る”のではなく――
“流れを断たずに動く”。
身体を線ではなく、円で運ぶんだ。」
ツバメの足が床を擦る。
円を描くように、風の残像だけ置き去りにしてECOの背後へ移動する。
ECOの目が追いつかず、わずかに乱れる。
「軌道……予測不能……?」
「感じるんだ、ECO。
知識や経験も大切だけど、それに縛られすぎている。
“考えるな、感じろ”ってね。」
「むっ……なんかカッコつけたネ、あの御子。」
「あ〜、いや……でも分かる気がする。
ECOの動きって、固いというか……“教科書通り”なんだよ。」
シンがなんとかフォローを入れる。
ツバメは手をひらりと振り、構えを促した。
「さあ、続けよう。
この“ツバメ”を掴んでごらん。」
ECOは刀を握り直し、静かに目を閉じる。
「……ありがとうございます。
今度は――直感で、動いてみます。」
ツバメの笑みが深まる。
「それでいい。
さて……第二ラウンドといこうか。」
夕日の残り火が差し込む中、
ECOの“変化”が始まった。
ツバメは刀に手を添え、教師のように穏やかに言う。
「君は真面目だ。だが真面目さは時に“風”を殺す。
さぁ、ECO。吹いてごらん。」
「ECO、GOGOネッ!! ぶっ飛ばすネ! ****ね!」
「ハルカ様、応援がお下劣になっております……!」
ECOは集中し、余計な音を遮断した。
(考えない……感じる……)
ツバメの言葉が胸で反響する。
次の瞬間、ECOの足がふわりと動いた。
線ではなく、円。
直撃ではなく、流れ。
「……おお。」
ツバメの目が僅かに見開く。
「動きが……変わった……?」
「“線”じゃなく“円”……?」
「そう。それが君の答えなんだ。」
ツバメが嬉しそうに笑う。
「もし“正解”があるなら、成長は止まる。
だから戦いも、止まった瞬間に終わる。」
ツバメの斬撃が走る。
シュッ――!
ECOは無意識に“流れて”避けた。
「うん。今、風に触れたね。」
ツバメは楽しそうに肩を揺らす。
「今の軌道……読める……」
「その調子だよ。
囚われず、自由に。ただ吹くように。」
ハルカが叫ぶ。
「なんかアメリカンソウルを感じるネ!! あの御子、アメリカンなの!?」
「いやどうだろ……でも今のECO、風みたいだ」
ツバメが刀を低く構える。
「じゃあ――少し本気でいくよ。
風を掴んだなら、次は“風を切る”番だ。」
「はい。」
次の瞬間、ツバメが消えた。
風だけが先に触れ、斬撃が降る。
ECOは腕で受け流し――
踏みとどまる。
「やるねぇ……!」
ツバメの声は弾んでいた。
互いの流れが交わり、
店内は、影が二つ踊る舞台と化した。
「す、すごい……すんごい試合だ……店でやるもんじゃない……!」
「……床、めちゃくちゃ削れてるネ……」
「やめてぇ!? 柱と床を守ってぇ!!」
ECOは集中のあまり返事をせず、シンの悲鳴だけが虚しく響く。
やがて数合の後、ツバメが刀を収めた。
「――今日はここまでにしておこうか。」
ECOは肩で息をしながら言う。
「……まだ戦えます。」
「君の主が泣きそうなのでね。」
ツバメは笑う。
「それに今日の目的は“風を知ること”。
君はそれを掴んだ。十分だよ。」
ECOは散乱した店内を見回し、深く頭を下げた。
「……ごめんなさい、マスター。
途中から無意識に……」
シンは涙声で。
「いいよ……いいよ……強くなって……リフォーム代稼いでくれ……」
ハルカは泣くシンの頭をポンポンと撫でながら慰めた。
「ツバメさん……私は、強くなれますか?」
ツバメは優しく微笑む。
「もちろん。
直線から円へ――一歩踏み出したのだから、
もう風は君を見捨てない。」
「風は……裏切らない……」
「主がいようといまいと、
“強さ”は君自身が育てるものさ。」
ECOは深く礼をした。
「また……教えてくれますか。」
「もちろん。
ただ僕は旅の途中だからね。
気が向いたら寄らせてもらうよ。
その時は、手加減なしで。」
「次会うときには……風を使いこなしてみせます。」
「ふふ、楽しみにしてるよ。」
ハルカがにやりと笑う。
「よーしッ! なんか知らないけど良い雰囲気ネ!
じゃあツバメ、アタシが作った晩ご飯食べて____」
「作らねぇだろお前は!!」
ツバメは吹き出し、優しく笑う。
「賑やかで、本当にいい店だ。」
彼は帽子を軽く持ち上げ、夕日に照らされて言った。
「……また来るよ、“深夜の世界”。
主が叶えられなかった夢の続きを終えたら、
ここにまた歩いてこよう。」




