六花の戦場、魔女の舞踏
鉄を叩くような鐘の音が、ジムの屋根を震わせた。
空気が一瞬で張り詰め、観客たちは息を呑む。
「なぁビットを使わない『月影の魔女』って見たことあるか?」
「いやない、むしろビット以外の武器を見たことが無い。なぁ、この試合どっちが勝つと思う?」
「近接のみだと……『六花の集い』じゃないか?ローズとリリィーマジで特化型だし、『E.M.A』?初耳だよ。
『月影の魔女』は強い。だが、連れが『ガラクタのECO』と『無名の第四世代』だろ?
実質2対1みたいなもんだろ?」
「だよなぁ…いくら魔女とは言え、初期型と第四世代がチームにいると足手まとい____」
ハルカが客席に向って指をさす。
「そこ!聞こえてるネッ!惚れても知らないよ。まぁ後でサインくらいあげるネッ!!ウチの店に来るといいネ」
「野次を飛ばすな…あと俺の店な!!」
「流石でございますハルカ様。売り上げの事まで頭に入れているとは…なんと貢献的なのでしょうか。コレで負けられませんね!」
管理者が大声をあげる。
「試合開始ーーーッ!!!」
「先手必勝ネ!!メリー!そのアメリカンなメリケンでアイツラをボコボコにするネ!」
『かしこまりました。』
白い袖を翻し、メリーが跳ねる。
袴が風を切り、光の軌跡を描いた。
柔らかく、しかし確実に――戦場の中心へ。
「ちょ?!何コイツ??マジでだるいんですけどッ?!」
「イケイケ!!叩き込むネ!当たらなくてもヤツらのペースを乱すネ!」
『かしこまりました。』
メリーの攻撃は当たらないが、ペースを乱す事に成功。
「俺達も続け!メリーの援護だ!」
『了解、マスター。』
ECOが無機質な声で応え、両腕のガントレットを鳴らす。
足には青白い光が走り、一気に距離を詰めた。
それを見て、アリスがゆっくりと扇子を閉じ、涼しい微笑みを浮かべる。
その仕草ひとつで、周囲の温度が二度ほど下がるような錯覚すら覚える。
「ふふっ、頼りになる子達ね。わたくしの出番は無しかしら」
一方、ローズの鞭はしなやかな光刃を振るい、
リリィーは細身の双剣を交差させ、音もなく滑る。
「うわ~、“おばさん”にしては速いじゃん?」
リリィーが笑う。
だが、その言葉が終わる前に――
カンッ!!
ECOの拳が床を踏み抜き、反動で加速。
空気が弾け、光の軌跡が一直線にリリィーへ――
突風のような衝撃波が走り、リリィーの髪が宙に舞う。
「反応速度、検証完了。あなたのインターバルを把握した。」
「なっ……!?この…ババァァがッ!!」
リリィーの感情は爆発し、怒りが会場に響く。
ローズの鞭がメリーを狙う。
細くしなる光が、まるで蛇のように彼女の体を絡め取ろうと迫る。
「甘いですわね。」
メリーは軽やかに一歩――舞うように後ろへ滑り、鞭の軌道を紙一重で避けた。
そのまま両手を胸の前で合わせると、瞳が淡く光る。
「——痛いかもしれませんが。我慢して下さいね。」
瞬間、メリーの拳はローズの胴体を捕らえていた。
「ッ??!」
観客席がざわめく。
「お見事ですわ。」
「お褒めに与り光栄ですわ、アリス様。」
その静かなやり取りに、ハルカは笑った。
「よっしゃぁ! このまま押し切るネ!
チームE.M.A、いっけぇぇぇぇ!!」
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観客は立ち上がり、声が爆発する。
光、風、音――すべてが交差する中、
それでも三人の御子の動きは美しく、揺るがなかった。
歓声が響く
ローズとリリィーはゆっくりと立ち上がった。
焦げた装甲の隙間から火花を散らしながらも、唇に笑みを浮かべる。
「――ねぇ、リリィー。“あれ”使っちゃおっよ。」
「……あんた、マジで言ってるの? まだ試作段階だよ?」
「ふふ、だって……勝てない勝負なんか楽しくないでしょ?マスター"アレ"使うよ~」
ふたりのマスターが、同時にコマンドを叩く。
光の回路が床を走り、六角形の紋様が広がる。
「む!なにか来るぞ……ッ!シン、ハルカ!一度回避をさせるでござる!」
流水寺が眉をひそめた。
「『六花の花冠』、展開。」
――世界が一瞬、白く塗りつぶされた。
ECO達のの視界が一瞬、乱れ、全方位からノイズが走った。
「……異常信号確認。敵ユニットが通信干渉フィールドを展開しています。」
シンのスマホに通信エラーの表記
「通信妨害……!? ECO!?聞こえるか?!」
シンは何度も確認をとるが、応答がない。
「ならこの前みたいに……」
瞬間、ハルカの叫びが会場響く。
「メリーーッ!!!」
スタジアムの中心でパニックにおちいるメリー。
「ハルカ様?!ご命令を?!ご命令を??」
このジャミングこそが第四世代の弱点。指示なしでは何もできない。
以前古舘さんが言っていた事を思い出す。
『____“第四世代”とは性能が高い反面、命令に忠実すぎる設計なんです。』
マスターとの通信が途絶えた今、彼女はただパニックになるしか無かった。
「メリー!落ち着いてください! これはただのジャミングです!……一度その場から離れて下さい!」
だが遅かった。
ローズの拳がメリーの顔面にヒット、光の火花が散る。
コースの端まで飛ばされた。
「借りは返したからね、どお?“六花の花冠”、相手の通信を遮断すると同時に____」
「ローズの思考が手に取る様にわかるの。
六花の花冠――リリィー達が編み出したスキルなんだから!
チーム戦でリリィー達には絶対に勝てないの!」
リリィーは勝利を確信したかのように笑う。
---
アリスが静かに扇子を広げた。
「……なるほど、ここは“六花の戦場”なのね。____ECO、少しの間、一人で戦えるかしら?」
「_策があるのですね。では、やります。」
ECOは時間を稼ぐかのように回避重視の引き付け役を担う。
アリスは倒れ込むメリーに近づき、そっと抱きしめた。
「立ちなさいメリー。いつまで地面にひれ伏しているつもりかしら?」
「____ハルカ様…ご命令を……ご命令を……一人は……嫌です…」
アリスの腕の中で震えるメリーを見て、
ハルカの胸が締め付けられた。
「__メリー………」
「大丈夫よ、貴方は一人になんかにならないわ」
メリーの震える指先を、そっと包み込む。
「いいこと、確かに、人間は必ず終わりを迎えるわ。
それは、わたくしたち御子にはどうしようもない“世界の摂理”。」
アリスは微笑んだ。
それは、どこか寂しさを含みながらも――強く、美しい。
「人間が有限だというのなら……
その有限の時間を、どう歩むのかは自由なのよ。」
アリスはメリーの額に軽く触れた。
「たとえ通信が途切れても、いなくなっても…心まで切れるわけではないもの。
だから立ちなさい、メリー。
“いなくなったらどうしよう”と怯えるより、
“今、隣にいる者を信じて”戦うの。」
そして、甘く凛とした声で締めくくる。
だが、それは自分にも言い聞かせているようにも聞こえた。
「わたくしが隣にいてあげる。
――怖がる必要なんて、どこにもありませんわ。」
メリーの瞳が光り、身体の震えが停まった。
「アリス様……ご迷惑おかけしました__私…もう一度立ち上がります。」
メリーはゆっくり起き上がり、拳を構えた。
「ECO。お疲れ様……あら、ずいぶんとボロボロになったわね。一度引いてもいいわよ…よく頑張ったわね」
「このくらい平気です。」
「ふふっ、なら、わたくしのスキルを使用するわ。2人とも"覚悟"は良いかしら?」
「「勿論です。」」
「そう。お利口さんね____Skill《魔女の指先》
アリスの扇子が音を立てて閉じ、静かに扇子を持ち上げた瞬間――
風向きそのものが変わった。
観客たちも気づく。
ただの近接戦ではない。
“魔女の領域”が、今この瞬間に確立されたのだと
その瞬間、ECOとメリーの腕に新たな黒い紋章が浮かびあがる。
「コレは……」
「この感覚は…」
異変に気付き、ローズが後ずさりした。
「……なに、この空気」
さっきまで確かに優勢だったはずなのに、背中に冷たいものが走る。
「ちょっとリリィー……ヤバくない?」
リリィーはECO達の紋章に気づき、慌ててECOへと攻撃に移る
「なんかヤバそうなんですけどッ!!このまま"ガラクタ"からさっさと仕留めるから!!」
「りょ~!!」
そこへ再びローズも鞭を放った。
「っ――!?」
メリーが割って入り、を受け止める。
瞬間、袴の裾が裂けた。
「メリーーー!!」
ハルカの叫びが微かに聞こえたが、メリーは振り向かず、微笑んだ。
「大丈夫ですよ、ハルカ様。私を信じてそこから見ていて下さい」
アリスは楽しそうに指揮を取る。
「さぁ二人の使い魔よ、わたくしの意のままに踊りなさい」
ECOとメリーの紋章と共鳴し、アリスの思考が直接二人へとリンクする。
(リリィーとローズの動きがハッキリとわかる…コレが……アリスさんの見ている世界……)
ECOとメリーの視野には次にどう動くのか、二人がどう仕掛けてくるのかが見える。
「コレが"魔女の指先"アリスさんのスキル…凄い、」
「あら、気に入ったかしら?ならオマケにもう一つスキルを使おうかしら?」
《魔女の天秤》
扇子がひらりと舞い、空気を裁くように弧を描く。
その瞬間、ECOが動いた。
「目標リリィー、距離2.1メートル……回避不能、接近戦を優先。」
床を蹴った衝撃で、スタジアムの中央がたわむ。
青白い光が尾を引き、次の瞬間にはリリィーの眼前に到達していた。
「は……早ッ……!!?」
リリィーは双剣を交差して防御姿勢を取った。
――だが。
「遅い。」
ECOの声と同時に衝撃波。
リリィーの身体が空中でバウンドする。
「なっ……!? なにそれ……!」
ECOの動きは、もはや“初期型”と呼べるものではなかった。
アリスのスキルによって、彼女の身体能力と反応速度は完全に“魔女クラス”に引き上げられている。
「わたくしの身体能力と同等になっているわ。存分に暴れて来なさい。」
「はい。ありがとうございます」
その一方でメリーは、裂けた袴の裾を押さえながら、小さく息を整えた。
「アリス様……わたくしにも、力が……みなぎってくるようです。」
「ええ。あなたは強い子よ、メリー。自信を持ちなさい。」
その声は、母が子を励ますように甘く――しかし力強い。
「……行きます。」
メリーの瞳が燃えるように輝き、白い袴が揺れた。
彼女の動きが――変わった。
軽い。
しなやか。
まるで身体の重さが無くなったかのように跳躍し、風のようにローズの前へ。
「ッ!? 速い……さっきと別人じゃない!」
「別人ではありません。」
メリーは静かに告げた。
「ハルカ様のために……私は、立ちます。何度でも。
命令がなくても……私を信じる仲間のために動けます。」
「うっ……!」
メリーの拳がローズの鞭を弾き、そのまま袴の裾がひらりと舞う。
純白の一撃が、美しい弧を描いてローズの胸部装甲に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
アリスは扇子を優雅に構えたまま、微笑む。
「よろしい……二人とも、とても美しい動きですわ。」
ゆっくりとした足取りで、アリスは前へ進み出る。
ローズとリリィーを見据えながら――
まるで、処刑台の前に立つ女王のように冷ややかに。
「では……始めましょうか。」
扇子がふわりと開き、静寂が落ちた。
「――“魔女の舞踏”を。」




