『Teams E.M.A』 後編
町から少し離れた郊外。
そこに、近接戦をこよなく愛する猛者たちが集うトレーニングジム兼バトルアリーナ――
近接魂堂
中は、御子はもちろん、筋骨隆々の男たちの熱気に満ちていた。
「うぉぉぉりゃああああああ!!!」
怒号と掛け声が響き、床が震える。
鉄と汗の匂い、“筋肉こそ人生”を信条とする者たちの聖地だ。
「ふむ……相変わらず熱量が高い場所だな。」
流水寺が腕を組みながら淡々と見回す。
隣でハルカが、きょとんと首を傾げた。
「……なにここ?筋肉馬鹿たちの集まりネ?」
「そう。簡単に言えば“拳で語る御子使い”の巣窟――近接魂堂。
通称、『近魂』だぁぁッ!!」
「やかましいわ!」
「女の子の前で下ネタ叫ぶとか最低ネ。一度あの男たちに××××されればいいネ。」
ハルカが冷たい目を向ける。
「じょ、冗談だってば!」
「けど燃えるネ!こういう雰囲気、大好きネ!
本場アメリカンのプロレスに近い何かを感じるネ!」
そんな騒ぎの横で、ECOは無言で周囲をスキャンしていた。
「……接近戦特化モデルが多数。
反応速度は平均を上回り、機動力も高水準。
戦闘アルゴリズムは粗いですが……瞬発力は侮れません。」
「お、おう……」
シンが苦笑する。
その時、組手を終えた若いマスターたちがこちらに気づいた。
背後には、光学装甲の御子と、露出の多い軽装モデル。
「ねぇローズ、見て。“初期型”がいるんだけど~」
「マジ? おばさんじゃん~まだ動いてるんだ~?」
ECOの瞳がひそやかに光を帯びた。
「……『おばさん』ですか。なるほど。機動力がある一方、学習言語が欠如していますね。語彙が下品です。」
「煽るな煽るな!」
シンが慌てて止める。
「別に気にしてません。別に。」
ECOは微笑むが、その目は一切笑っていなかった。
「うわ~、考え方も古っ。やっぱ初期型って感じ~」
ハルカの目がギラリと光った。
「……アンタ、今ECOを馬鹿にしたネ?」
「え?なに、文句あるの?ってかその喋り方ウケるんだけど~」
空気が一変する。
メリーがそっとハルカの頬に触れた。
「ハルカ様、落ち着いてくださいませ。ここは冷静に。」
「……大丈夫ネ。御子相手に喧嘩はしないネ。アタシ大人ネ。」
シンと流水寺は同時にため息をつく。
「それ以上騒ぐと、今朝の93dBを思い出すからマジでやめてくれ。」
「そうでござる。今日はあくまで特訓のために来ているのだ。」
だが、生意気な御子は鼻で笑った。
「あれれ~?マスターのくせに御子を馬鹿にされても言い返せないの?
あんたらマスター、腰抜けじゃん~?男が廃ってる~」
ピシィ――
空気が張り詰めた。
「「「……誰のマスターが……『腰抜け』ですか(かしら)?」」」
ECO、メリー、アリスが同時に一歩前へ出る。
ECOが冷静に言う。
「……鈍感なだけです。」
メリーは髪を整えながら、静かに微笑んだ。
「あらあら、困った子たちですね。」
アリスは扇子を閉じ、涼しい声で言った。
「不愉快ですわね。少し教育が必要かしら。」
ジムの空気が、一気に“一触即発”に変わる。
「……えぇ。」
シンは頭を抱えた。
生意気な御子が勝ち誇ったように笑う。
「まぁ、ローズ達は強いから特訓に付き合ってあげようか?
ローズ達2人が――あんたら3人をまとめて相手してあげよっか~?」
「マスタ~!このおばさん達がリリィー達をイジメたいってさ~!!」
リリィーの声を聞き、マスターと思しき巨漢の男たちが立ち上がった。
「なにぃ~!? 俺のリリィーたんを虐めたいだぁ!?
許さん!まずは俺が挨拶代わりに……いや、懲らしめてやる!!」
拳を振り上げた瞬間、隣の男がそれを止めた。
「待て、フランキー。相手をよく見ろ。」
「はぁ?ヒョロガリ2人と女だろ?」
「バカ。あの変な格好のやつは……流水寺だぞ。」
「流水寺??………あ!あのランキング……なん位か忘れたがテレビ出てるやつか?」
「そうだ。ここで手を出せばお前は神楽から永久追放だ。
だが――神楽で勝てば俺達の名が上がる。」
「お前天才かよ?けどよ、勝算は?」
「見た限り、2体は無名。問題はアリス・ゲート……だが、
あいつの主力は18機のビット。だが、ここは近接魂堂。
コッソリ"近接のみの勝負"と独自のルールを設ける。
これなら勝機はある。
俺とお前、ローズとリリィーのG1昇格も夢じゃねぇ!」
「流石だぜ相棒!!『六花の集い』【叡智】の称号は伊達じゃないなッ!!」
「おうよ!」
二人は熱い握手を交わした。
シンが深いため息をつく。
「……終わったか?なぁ、どうする?」
ハルカはニヤリと笑った。
「決まってるネ。ECO&メリー&アリス vs ローズ&リリィーの混合マッチネ!
チーム名はそれぞれの頭文字をとって《E.M.A》ネ! デビュー戦ネ!」
「素敵なネーミングでございます、ハルカ様。
【絵馬】――なんだか縁起の良さそうな響きです。」
「了解。《E.M.A》、受諾しました。」
ECOが静かに頷く。
メリーが柔らかく笑う。
「では……お手並み拝見いたしましょう。」
アリスは扇子を広げ、口元に微笑を浮かべた。
「あらあら、わたくし一人で行くはずでしたが……楽しいことになりそうですわね。」
ややこしくなる事態にシンは頭を抱える。
「……なんでみんなそんなに血の気が多いんだよ」
男は笑う
「フッ、決まりだな。スタジアムの利用許可をとって来るから足を洗って待ってろ」
「「「…………顔じゃね?」」」
ジムの利用者たちはざわめく、『月影の魔女』の噂を聞きつけた者でスタジアムの観客席はたちまち埋まった。
管理人が現れ、静かにマイクを取る。
『それでは――チーム《E.M.A》対、チーム《六花の集い》の特別試合を開始します。
両チームの健闘を祈って……黙祷。』
−−−カァァァン。
鐘の音が響き、静寂が訪れる。




