ノンストップガール ③
日が沈み、夜の町が騒がしくなる頃――
その中に、一軒だけいつもより異様な熱気を放つ居酒屋がある。
名を『深夜の世界』。今日もまた、何かが起こりそうだった。
「いらっしゃいませネッ!!」
暖簾をくぐった瞬間、客たちは目を疑った。
ミントグリーンの制服を着たユイがローラースケートで滑りながら、
信じられない速さで料理を提供している。
「Welcomeネ!ディープナイト・ダイナーへようこそネ!」
「勝手に店名変えんじゃァねぇぇえッッ!!!」
シンはお玉をユイに向かって投げるが身軽にかわした。
「ノンノン!アタシの運動能力はサイキョー!」
そんな2人をECOは冷静に見守る。
「スピードは有効。ですが、事故率87%。危険です」
「ノープロブレムネ! 事故もエンタメ! 転倒すらショータイムに変えてみせるネ!」
その瞬間、トレイの上のジョッキが宙に浮き――
スッとECOが片手でキャッチする。
「ジョッキと給料が落ちますよ」
「oh~やはりこの店にいると反射神経鍛えられるネ!」
客席の常連たちは爆笑しながらグラスを掲げる。
「良いぞ~!!ユイちゃーん、ビールおかわりッ!!」
「了解ネ! ビール・オブ・フリーダム☆発射準備OK!」
シンは頭を抱えた。
新しくバイトとして入ったユイはすぐに店に慣れ、あっという間に人気者になっていた。
店はさらに活気づき、売上も上がった。
普段はビール一杯で四時間居座る常連たちも、今日は三杯目を注文している。
――その代わり。
グラスと皿の損耗率も過去最高を更新中だった。
「of courseネ!失敗も成長している証!つまりアタシはレベルアップしてるネ!」
「ですが、ユイ様。危ない行為はやめてくださいね。」
奥からメリーが静かに現れる。
紫の矢絣柄の着物に、淡いベージュの袴。
背筋はまっすぐ、ピンクの髪は丁寧にまとめられ、
髪飾りの小さな藤の花が揺れていた。
どこか“古き良き日本の春”の香りを纏っていた。
シンは思わず言葉を失う。
「……え、なんで急に“店の女将”みたいな風格だしてんの?」
メリーは小さく会釈しながら微笑む。
「ユイ様が“男性が好む服”と仰いましたので、
“大正ロマンの正装”を参考にいたしました。お気に召しますでしょうか?」
「うん!“ロマンチック・大正・ガール”ネ!」
ECOが冷静に評価する。
「美しいです。文化的調和率、98%。とてもよく似合っています。」
「ECO…お前まで……」
「おおっ……あの娘はなんて美しいんだ!」
「おいおい、こんな店で品のある給仕、初めて見たぞ!」
その時ちょうど、仁さんとみっちゃんがやってきた。
メリーは小さくお盆を傾け、柔らかく挨拶する。
「いらっしゃいませ。本日はようこそお越しくださいました。
どうぞお足元にお気をつけて、お席へご案内いたしますね。」
その声に、仁さんがうなる。
「おぉ!まるで老舗料亭の若女将だな。ここは一つお酌をお願いしたい。」
「あ~ら~素敵な御子ちゃん♡ 私も着物を着てみたいわ♡後で買いに行こうかしら♡」
とみっちゃんも興奮。
資さんが真剣に呟く。
「メリーちゃん、将来“店長”いけるな……」
もう皆、2人にメロメロである。
「お前ら………」
シンはモヤモヤが止まらない。
ECOがすかさず訂正する。
「彼女はアルバイトです。昇格はまだ早いかと。それに代理は弟様がいらっしゃいます。」
「え、僕……そういうのは向いてないかなぁ…その時はユイさんとメリーさんに任せるよ」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」
シンの叫びは今日も町に響き渡る。
それから、次第にメリーの“丁寧な接客”と“古風な美貌”がSNSで拡散される。
──そして、トレンドには新たなタグが並んだ。
#深夜の世界 #大正ロマン #和洋折衷の奇跡
シンが頭を抱える。
「ちょっ……なんで急にフォロワー増えてんの!?しかもECOとメリーの写真が1万イイね?!」
ハルカが得意げに言う。
「成功ネ!“アメリカン×ロマン”の融合ネ!文化ハイブリッドは世界を救うネ!」
ECOはぼそっと呟く。
「……つまり、私も衣装を着替えれば、知名度が上がると……"人気枠"……取れる可能性がありますね。
では、早速着替えて参ります。」
「俺の店はコンカフェじゃねぇんだぞ!!」
「それより売上倍ネ! 時給上げるネ!」
「ハァ??割ったグラス代引くから!」
「Noooooon!!シンの意地悪!!」
――今日も、『深夜の世界』は賑やかだった。
なお、この日の破損報告はグラス四個、皿二枚、シンの精神一個である。




